[山口二郎コラム]参議院選挙と日本政治の変化

投稿者: | 2025年8月4日

 日本では、7月20日に参議院選挙が行われた。与党である自民党、公明党は議席を大幅に減らし、参議院でも過半数割れを起こした。衆参両院で少数与党状態というのは、戦後政治史上初めての異常事態である。

 自民党の敗因は、単純である。物価上昇が続き、生活苦を訴える人が増えて来た。自民党の政治家の多くが、派閥のパーティー券収入を裏金として貯めていたことが明らかになり、強い批判を受けたにもかかわらず、政治資金の規制に関する制度改革は実現していない。自民党政治の失策と腐敗に対する国民の強い批判が選挙で表明されたのである。

 内閣府が毎年行っている「社会意識に関する世論調査」を見ると、国民の世の中に対する認識の変化がわかる。「社会全体に対する満足度」という項目では、2013年2月の調査で、「満足」が「不満」を上回り、2010年代を通して、「満足」が6割、「不満」が4割であった。自民党は2012年12月の衆議院選挙で政権を取り返した。2013年の満足度の上昇は、自民党の政策が国民に恩恵を及ぼしたからではない。逆に、国民が日本の現状に満足しはじめたときに自民党政権が復活した。2010年代は自民党にとって安定期であり、国政選挙では勝利を続けた。安倍晋三政権は日本史上最長の政権となった。

 しかし、安倍、菅、岸田の三代の政権は、この安定を建設的な政策実現には使わなかった。政治的無競争状態にあぐらをかき、必要な改革を先送りした。特に後世にツケを残したのは、アベノミクスと言われる経済政策である。安倍政権は、大規模な金融緩和、日本銀行による事実上の国債の引き受けを通して、円安を進めた。これは輸出企業の利益を膨らませ、株価は上昇し、株主配当、役員報酬、内部留保は増加した。しかし、富は労働者に分配されず、賃金は停滞を続けた。貿易収支は赤字の年が増え、新しい産業は生まれていない。ただ、一般国民も株高を見て、国の経済はうまくいっていると錯覚した。

 2020年代に入ってようやく国民は現状に対する批判や疑問も持つようになった。前記の内閣府調査によれば、2023年11月の調査では「満足」が50.3%、「不満」が48.8%、2024年9月の調査では「満足」が53.4%、「不満」が44.7%と接近している。年代別にみると、20代、30代、40代で不満が満足を55対45程度で上回っている。私が教えている大学生と話をすると、彼・彼女らは将来に希望を持っていないと言う。現役世代は、働いて給料をもらっても、税金と社会保険料が引かれることに不満を持っている。この参議院選挙では、野党はこぞって減税を訴えた。これに対して、石破茂首相は、魅力的な生活支援策を打ち出すことがなかった。

 この選挙の最大の勝者は、参政党であった。この政党は2020年に設立され、2022年の参院選で初めて1議席を獲得した。2024年の衆院選では3議席を得て、今回の参院選では14議席を獲得し、比例代表の得票は700万を超え、野党の中では2位となった。

 参政党のスローガンは「日本人ファースト」である。選挙戦の中では、外国人が社会福祉で優遇されているというデマを流し、排外主義を煽った。候補者の中には核武装を唱える者もいた。また、同党が発表した憲法改正案は、国民主権や基本的人権を否定する内容である。この政党は西欧における極右政党と同類である。同党に投票した有権者の多くは、新しいイメージに惹かれた、あるいは自民党支持から離れて保守的な別の政党を求めたということで、政策内容を理解し、賛同したわけではないと思われる。

 それにしても、参政党が排外主義や差別主義を是認する気分を顕在化させたことは、日本政治に悪影響を与えることになる。外国人観光客の急増、外国の富裕層による日本の不動産の買収は、円安の帰結である。それは、極右や保守層が今でも評価する安倍政権の政策であった。つまり、これらの人々が外国人の存在感の高まりを批判するのは矛盾した話である。しかし、こうした人々に論理や事実を説いても、無力である。先入観や被害者意識を持つ人々が社会に一定数存在するという状況で、人権や民主主義を擁護するのは、以前よりも難しくなった。古いと言われても、既成政党の政治家は、民主政治の基本原理を訴えて行かなければならない。

山口二郎|法政大学法学科教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr)

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