元米情報要員のデイビッド(ダニエル・デイ・キム)は過去、幼い娘のレベッカと生き別れた。いつのまにか成長したレベッカは、正体不明の秘密組織「キャディス」の要員であり、殺人兵器として活動している。レベッカを救い出そうとしたデイビッドは、息詰まる追撃と脅威に見舞われる。
スパイ物に家族の物語を加味したドラマ「バタフライ ~追う者と追われる者~」(以下バタフライ)は、見慣れたハリウッドドラマのストーリーで展開される。ところが、その舞台は米国ではなく、韓国だ。デイビッドはソウルのあるカラオケで会社員のように飲み会をして、娘のためにホットクを作る。レベッカがソウルのあるホテルでもみ合いになった場面では、BLACKPINKの歌がBGMとして流れる。また、プンオパン(たい焼き)、(赤い)ゴム手袋、コンビニなど韓国的な素材が次々と登場する。
世界を席巻したネットフリックスのアニメーション『KPOPガールズ!デーモン・ハンターズ』(以下「ケデハン」)のように米国資本で韓国的な話を扱ったコンテンツが増えている。K-POPをはじめ、韓国ドラマ、映画、食べ物など韓国文化全般に対する関心が高まった影響とみられる。
米国のアマゾンMGMスタジオが製作したドラマ「バタフライ」は先月から動画配信サービスのアマゾン・プライム・ビデオとtvNで同時に放映されている米国制作のドラマだが、家族愛など韓国的な要素が中心になっている。キム・テヒ、パク・ヘス、キム・ジフン、ソン・ドンイルなどかなりの出演者たちが韓国人であり、英語に劣らず韓国語のセリフもよく登場する。韓国系米国人俳優のダニエル・デイ・キムが総括製作と主演を務め、脚本は韓国系作家のステフ・チャが担当した。釜山(プサン)で生まれて幼い頃に移民したダニエル・デイ・キムは「韓国は私のアイデンティティの重要な部分」だとし、「私の人生と経験を落とし込んだ作品を作りたいという願望があった」と語った。
昨年シーズン2まで公開されたアップルTVプラスのドラマ「Pachinko パチンコ」も米国製作のドラマだが、韓国人移民者の人生と哀歓を取り上げた。韓国を離れて粘り強く生き残った韓国人移民家族4代の人生と夢を描いた大河ドラマで、日帝強占期(日本による植民地時代)から第2次世界大戦など韓国近現代史の痛ましい場面がそのまま盛り込まれた。 ユン・ヨジョン、キム・ミンハ、イ・ミンホ、チョン・ウンチェなど韓国の俳優たちが主演を務めた。2022年に公開されたシーズン1は、米国の「クリティックス・チョイス・アワード」で最優秀外国語ドラマ賞を受賞し、好評を博した。
今はこのようなやり方のバラエティ番組も出ている。先月29日アップルTVプラスを通じて全世界に同時公開された「KPOPPED」はK-POP歌手と海外ポップスターがチームを組んで従来のヒット曲を「K-POP化」した舞台を披露する8部作音楽競演番組。アップルTVプラス、CJ ENMなどが共同製作した。「江南スタイル」大旋風を巻き起きしたPSYとグラミー3冠に輝くポップスターのメーガン・ザ・スタリオンをはじめ、KポップガールグループのBillie、ITZY、Kep1er、Kiss of Lifeなどと、英国のガールグループのスパイスガールズのエマ・バントン、米国のラッパーのバニラアイス、米国歌手のテイラー・デインなどが出演する。韓国で撮影したため、韓国の趣が感じられる背景と場面もよく登場する。演出を担当したイ・ヨンギュPDは「アップルTVプラス側も韓国で撮影しなければならないと、ずっと言っていた」とし、「韓国特有の美しさが見られる場所や、若者たちが集まる場所を中心に撮影した」と語った。
過去にも米国の製作会社がアジアなど他文化圏を背景にした話を取り上げたことは多かったが、米国人の目から見たファンタジーに近いという評価が多かった。一方、最近の作品は主に韓国系移民者が制作に参加することで、韓国の歴史と情緒、流行を具体的に反映ししているのが特徴だ。「ケデハン」のマギー・カン監督は先月の来韓記者懇談会で「海外で作った韓国コンテンツを見れば間違いが多い。『ムーラン』のようにファンタジーアジアに近い。中国をテーマにしているのに、着物を着る場合もある」とし、「韓国文化をディテールまで反映したかった。我々のチームには韓国人が多く、一つひとつ丁寧に作り上げた」と語った。
このような流れの根底には、最近の韓国的なものが金になるという認識がある。大衆文化評論家のキム・ホンシク氏は「米国製作会社は事業上の利益になることを自分たちのIP(知識財産権)に引き入れようとするが、今韓国コンテンツとK-POPがそのようなブランド価値を持っているため、素早く動いている」とし、「スパイスガールズがK-POPコンテンツを撮りに韓国に来る時代だ。米国の製作会社と共同製作に乗り出したCJ ENMのように韓国の製作会社もチャンスをつかまなければならない」と語った。
ただ、西欧人の見方で韓国的なものの見慣れない新鮮な魅力が消えた後も、Kコンテンツの人気が続くかは、見守らなければならない。忠南大学国語国文学科のユン・ソクジン教授は「『ケデハン』の人気の秘訣はK-POPと巫俗信仰、カッなど韓国文化要素をうまく演出したことだが、後日グローバルコンテンツ市場では他のものに代替される可能性がある」とし、「普遍的人気が続くよう幅広く強固なKコンテンツ環境を作らなければならない」と語った。
2025/09/04 19:03
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