韓国人はここ何日かで、はるか米国で起きた事件で2度も驚かされた。一度は「粛清」でだ。韓米首脳会談を数時間後に控えて、トランプ大統領がSNSで「韓国で粛清や革命が起きているようだ」と発したのだ。次は「鎖」でだ。首脳会談からわずか10日後、ジョージア州の現代自動車とLGの合弁工場で、300人あまりの韓国人が移民関税執行局(ICE)の不法滞在者取り締まりで強圧的に逮捕されたのだ。いずれもあきれたハプニングのようにみえるかもしれない。しかしこれは、より大きな構造を暗示する兆候だ。
3つの点が注目される。第1に、米国大統領の一言、米国政府の1つの行動が、韓国政府をほぼ非常事態に陥れるほど緊張させたこと。第2に、韓国の極右勢力が直ちに米国を背景として政府を揺さぶろうとしたこと。第3に、このような国内外の環境の中で、韓国政府の目標は韓米関係の悪化を防ぐという防衛的なものへと萎縮していたこと。このような経験は、内乱後の韓国社会が乗り越えていかなければならない時代環境を教えてくれる。
同盟国のクーデターに対する捜査を粛清と呼び、その国の企業の従事者を鎖でつないで逮捕した今回の事件は、反民主・反人権の政治が「グローバルなニューノーマル」として馴染んでしまったという現実を反映する。極右は今や多くの国で、単に極端な少数派にとどまることなく、権力の中心、社会的主流の一員となっている。
新たに注目すべきは、今日、世界各地の極右または強硬右派勢力は、互いに活発に交流しながらグローバルなネットワークを構築しつつあるということだ。2000年代までは、極右の国を超えた拡散は主にインターネット仮想空間の現象であったし、人的・組織的連携は主に右翼社会運動で起きていた。だが今や、多くの国で極右が主流化、権力化することにより、各国の政治、宗教、文化エリートが交流するグローバルな極右のエコシステムが形成されつつある。
超国的な極右ネットワークの構築は、各地域の行為者の利害関係によって推進される面もあるが、2016年のトランプ大統領当選以降の米国右翼勢力の主導性が決定的だ。米国保守連合(ACU)、保守政治行動会議(CPAC)、全国保守主義会議(NatCon)などの政治団体、キリスト教諸団体、スティーブ・バノンなどの影響力のある人物がその中心にいる。
ACUが主催するCPACは1974年に共和党のレーガン派が立ち上げたものだが、その後、「トランプ化」した。もともと米国内の強硬保守勢力の拡大を目標としていたが、2018年ごろからグローバルな拡大を推進してハンガリー、ブラジル、メキシコ、オーストラリア、日本、韓国などで開催されている。いっぽうNatConは、2019年から主に欧州へと広まり、バンス副大統領、ハンガリーのオルバン首相、イタリアのメローニ首相、リフォームUK党首のナイジェル・ファラージらが講演してきた。このような交流とネットワーキングによって、彼らは何をするつもりなのか。
1つは政権獲得だ。米国の右翼は外国の選挙に関与し、自分たちのパートナーの政権獲得を支援している。今年2月のドイツ総選挙を前に、イーロン・マスクはドイツの極右「ドイツのための選択肢(AfD)」代表のアリス・ワイデルとオンラインで対談しており、バンス副大統領はミュンヘンのある演説で、極右を阻む「防火壁のようなものはありえない」と述べて波紋を広げた。ポーランドでは、大統領選挙の決選投票直前に行われたCPACのイベントに米国国土安全保障長官クリスティ・ノームが講演者として参加し、右派候補のカロル・ナブロツキを積極支持した。ロシア・ウクライナ戦争で安全保障に対する不安の強いポーランドにおいて、米国の支援はナブロツキ候補の大統領当選にとって決定的だった。
もう一つは「文化戦争」だ。カンファレンスのような集合的イベントは、イデオロギーの伝播とポピュリズム的扇動の手段だ。講演者たちは「自由」、「民主主義」、「解放」のような言語を再意味化して極右の武器へと転換し、「グローバリズム」、「トランスジェンダリズム」、「ウォーキズム」、「共産主義」、「全体主義」に関する憎悪と恐怖を広める。米国発の不正選挙論と中共背後論、フランス発の「グレート・リプレイスメント(大置換)」理論、ドイツ極右の「西欧消滅論」、「イスラム化論」が国境を越えて共有される。こうして極右的思考、信念、ビジョン、言説が世界的に広がる。
韓米の間でも、数年前からそのようなネットワークが構築されつつある。不正選挙論、反中言説もそこから生じたものだ。大きく政治的ネットワークと宗教的ネットワークの2つに分けられる。両者は同一のネットワークではないものの、人的にも組織的にもかなり重なっているか、互いに緊密につながっている。
政治的ネットワークは、米国の極右、あるいは強硬保守政治勢力の国際化プロジェクトと結びつくことで活性化した。米国のCPACと連携して2019年には「韓国保守主義連合(KCPAC)」のイベントが開始されており、その後も韓米自由安保政策センター(KAFSP)、ワンコリアネットワーク(OKN)、韓米同盟USA財団(KUAUF)などが設立された。米国ではトランプ・ジュニア、ゴードン・チャン、マット・シュラップなどの重要人物が、そして韓国では国民の力の政治家たちが、KCPACと交流した。
宗教的ネットワークの方はというと、ペ・ドンマン教授とソ・ミョンサム教授の研究によると、米国のカリスマ派神学と新使徒運動の伝統を持つ親トランプ勢力が韓国の極右プロテスタントと関係を結んでいる。「コリアン・ヤングMAGA」と呼ばれるキム・ミナ氏が代表を務める「ビルドアップコリア」、ペンテコステ運動や新使徒運動のリーダーたちが参加する「ハーベスト国際職務(HIM)」がその例だ。2024年にはビルドアップコリアでトランプ大統領の長男が講演するなど、米国政治の実力者が関与し、ソン・ヒョンボ、チョン・ハンギルらもこのようなイベントを通じて米国右派プロテスタントと政界につながる。
以上のような米国主導のグローバル極右秩序と韓米ネットワークは、韓国国内の政治に影響を及ぼす構造的環境だ。韓国の極右勢力は、米国にとっての最高のパートナーとなって支持を得ることで、国内的なぜい弱性を相殺しようとする可能性がある。トランプは韓国に打撃を与える潜在力を示すことで、交渉でより多くを引き出せる。さらに、米国政府内の強硬派がいっそう確実な親米、反中路線を要求してくる可能性もある。
このような圧力を克服するためには、韓国政府は国際的なコミュニケーションと友好関係の拡大をよりいっそう重視しなければならない。グローバルな舞台で繰り広げられるヘゲモニー争いの能動的な行為者とならなければならない。最も重要なのは、国内的支持基盤の強さから生じる正当性だ。民主主義の退行の時代にあっても、依然として権力の究極の源泉は、多数が誰の側に立つかだ。
2025/09/10 07:00
https://japan.hani.co.kr/arti/opinion/54203.html