原価は下げ、品質は最高に…サムスン電子を育てた「パラドックス経営」(2)

投稿者: | 2025年9月26日

サムスン電子が成し遂げた「原価は低いのに製品は最高」という結果は、一見不可能に見える組み合わせだ。このように両立不可能に見える要素を同時に追求する経営を「パラドックス経営」と呼ぶ。新経営以降の李健熙会長時代のサムスン電子は、特有のサムスン式パラドックス経営を確立した。▷巨大組織でありながら意思決定と実行速度が速く ▷多角化および垂直系列化によって数多くの事業群を持ちながらも各事業それぞれの競争力を最大化し ▷破格的インセンティブ・挑戦意識などを重視する米国式経営ときめ細かな管理を行う日本式経営の長所を調和させた。

どうしてこれが可能だったのか。大規模投資は所有経営者が果断に決断し、運営上の決定などは崔志成(チェ・ジソン)・権五鉉(クォン・オヒョン)のような力量ある専門経営人に任せ、意思決定速度を高めた。また挑戦的な目標を掲げ、危機意識を共有して役職員の情熱を引き出すことで実行スピードを引き上げた。各事業は文字通りジャングルのような競争に投げ込まれ、力量を培った。内部部品生産組織から納品を受けても外部取引先に比べて特別な特恵はなかった。サムスン電子内部の事業組織や系列会社が「外部顧客も内部ほど厳しくはない。内部の方が怖い」と不満を漏らすほどだった。

 これを通じてサムスン電子は製品の原価を下げ、品質を改善・差別化する革新力量を世界最高水準へと引き上げた。また部品とセット(完成品または部分品)の競争力をともに高める「複合化を通じたシナジー」を創出した。

ワールドクラスへと飛躍したサムスン電子は2014年以降、売上高の増加傾向が目立って鈍化した。2023年以降、本格化した人工知能(AI)革命に素早く乗り切れず、30年以上守ってきたメモリー半導体1位の座をSKハイニックスに譲る可能性が高まった。過去30年間、サムスン電子はアナログからデジタルへの技術的パラダイム変化を主導し、2007年以降アップルが先導したスマートフォン革命に素早く乗ることによって禍を転じて福となし、成長を成し遂げた。しかし2014年に李健熙会長が倒れ、後任の李在鎔会(イ・ジェヨン)長が国政壟断事件で10年近くも法的リスクに直面し、デジタル・スマートフォン革命を超える巨大なパラダイム変化であるAI革命の初期に苦戦を免れることができていない。

◇サムスン内部に短期成果主義・官僚化が蔓延

AI革命の核心であるAIアクセラレータを先導するエヌビディア(NVIDIA)がAIデータセンター投資ブームの恩恵で時価総額世界1位に浮上し、エヌビディアのAIアクセラレータに搭載される高付加価値メモリー(HBM)をほぼ独占的に納品したSKハイニックスは、今年37兆ウォンほどの営業利益を上げる見込みだ。AIアクセラレータを製造する世界1位の半導体受託生産企業である台湾のTSMCはシェアを急激に高めてきた。一方サムスン電子はまだエヌビディアにHBM最新バージョンを納品できていない。兆単位の赤字に苦しむファウンドリ事業はTSMCとのシェア格差がさらに広がっている。

サムスン電子は昨年、全永鉉(チョン・ヨンヒョン)副会長が半導体部門の新CEOに就任し、技術競争力復活を最優先課題に掲げた。その結果、HBMとファウンドリ分野での競争力が高まり、新規顧客獲得を通じた業績改善が目に見えるようになっている。しかしSKハイニックスやTSMCに追いつくにはまだ先が長い。過去10年間、かつてのインテルなど一流企業の没落過程でよく見られた財務中心の短期成果主義が蔓延し、組織の官僚主義化が進んだことも憂慮すべき状況だ。2019年にHBM先行技術開発チームを解体したのは短期成果主義の代表的な事例だ。官僚主義化によって構成員たちは「サム務員(サムスン公務員)になった」と自嘲する。さらには優秀な技術人材が国内外の競合他社へと流出までしている。

今や李在鎔会長の法的リスクは解消された。短期成果主義から抜け出し、より果敢に新成長動力を確保し、技術競争力回復のための投資を断行する時点だ。同時に革新を先導する企業となるためには、「管理のサムスン」と代弁される経営意思決定構造と組織文化に対する大規模な再点検と改革が必要だ。

ソン・ジェヨン/ソウル大学碩座教授

2025/09/26 14:05
https://japanese.joins.com/JArticle/339157

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