「朝鮮半島非核化は虚像…韓国、潜在的核保有国に進むべき」

投稿者: | 2025年11月5日

 ソン・ミンスン元外交通商部(現外交部)長官は「今後のかなりの期間、朝鮮半島に『二つ』のまったく異なる国家が存在することになる」としたうえで、「交渉を通した『朝鮮半島非核化』は実現不可能な虚像」だと強調した。ソン元長官は「核を保有する北朝鮮を相手にする韓国の考えは変わる必要がある」として、「統一という理想はひとまず棚上げにしよう」と述べた。

 ソン元長官は、今の韓国社会に対して「統一」と「非核化」はいったん忘れようと提案したのだ。通念を揺さぶる論争的な話題だ。誰も言わなかった話というわけではない。問題は提案者の経歴だ。ソン元長官は1975年に外務部に入り、2008年2月に外交通商部長官を退任するまでの34年間、韓国外交の最前線を守った。SOFA(在韓米軍地位協定)改正、防衛費分担金協定の締結など、韓米同盟の基盤を固める過程に参加し、「東北アジア脱冷戦の青写真」と呼ばれた2005年の6者会談の9・19共同声明の生みの親の役割を果たした。「非核・平和の朝鮮半島」の青写真を描いた当事者による「統一と非核化は忘れよう」という提案は、その重量感は格別なものにならざるを得ない。

 新著『よき垣根、よき隣人』(「考えの窓」刊)の出版を機に、先月29日に南山(ナムサン)のふもとにある個人研究室の近くで会ったソン元長官は、話したいことが多くありそうにみえた。飲食店からカフェに移りながら共に過ごした2時間ほどの間、休みなしにこれまで培ってきた考えを次々と語った。

 『よき垣根、よき隣人』は2016年に出した回顧録『氷河は動く』(「創批」刊)以来、9年ぶりとなる新刊だ。『氷河は動く』が税金で生計を立てた34年間の公職生活の経験と苦悩を、企業が会計報告をするかのように韓国社会に公開した「過去」に関する報告だとすれば、『よき垣根、よき隣人』は、韓国社会の未来を解き明かそうとして提示した題材だ。「安全保障と統一の12の質問」という副題が明確に示しているように、ソン元長官は、大韓民国号の未来を切り開くうえで必須だと思われる12の質問を選択し、「『平和・繁栄・統一』という国家的な願いに向かう討論」の呼び水として、これまでの研究と苦悩を凝縮した自身の意見を最初に明らかにした。

 新刊本のタイトルは、「よき垣根がよき隣人をつくる」というロバート・フロストが第1次世界大戦の渦中に作った詩の一句から取った。ソン元長官は、今の韓国社会に切に求められているのは、「平和」よりも「安定」だと繰り返し強調した。北朝鮮を含む周辺国と対立・衝突なしに共存するためには、「広場を切り開くとき」ではなく「よき垣根を築くべきとき」だと考える。垣根をしっかり築いてこそ「国家の政策の戦略的自律性を拡大できる」。それでこそ「よき隣人」を得られるということだ。その「よき隣人」には北朝鮮も含まれる。北朝鮮を「同胞」ではなく「隣人」とみなして対応しようというソン元長官の認識と提案は刺激的だ。

 ソン元長官がこのような結論に至ることになった根底には、「北朝鮮核問題」が本質的に変わったという認識がある。ソン元長官は「(大陸間弾道ミサイル『火星-15』の試射に成功した)2017年末に北朝鮮が核保有国として登場した」と断言した。北朝鮮がそのときを起点に「使用可能な核兵器」を保有することになったという点で、キリスト教の聖書で人類が禁断の実を食べる前と後の違いと同じくらい、「朝鮮半島という世界を別物に変えた」のだ。ソン元長官がみるところ、北朝鮮の核はすでに「変数」ではなく「定数」であり、北朝鮮が自ら核を放棄するという期待は「縁木求魚」(木によじ登って探すように不可能なこと)だ。

 ソン元長官は、冷戦終結後の約30年間、歴代の韓国政府が堅持してきた「暖かい平和」(積極的平和)、すなわち「交流協力‐非核化‐平和体制‐統一」の経路が壁にぶつかったと考えている。したがって、いまこそ「冷たい平和」(消極的平和)、すなわち「分断の現実の認定‐力の均衡‐安定と共存」をまず指向すべきだと提案する。言い換えると、「北朝鮮に対する抑制と封じ込めを結びつけた態勢を維持しつつ、同時に緊張緩和とリスク縮小を並行」しようということだ。

 ソン元長官は「現在のように、韓国が米国と北朝鮮の核の間で成立する均衡を信じて生存」することは、「枝にぶら下がる実のように、脆弱な安全保障の構造」だと断言する。「北朝鮮が核を政治的に用いるかぎり、韓国は米国にへつらわざるを得ないため」だという。追い打ちをかけるように、韓国が「国家の安全保障を絶対的に依存」する米国は「『自分の生存を優先する』という米国第一主義」を掲げている。ソン元長官がみるところ、米国が韓国を覆っている核の傘をいつ閉じるのか、核の傘の費用がいつ耐えられない水準にまで跳ね上がるのかは予測できない。

 したがって、韓国は「潜在的核保有国」に転換すべきだというのが、ソン元長官の中心をなす提案だ。「潜在的核保有国」は、「核不拡散(NPT)体制下で核兵器の製造に必要な基本要素をすでに備えており、決定さえ下せば、短期間に核兵器を保有可能な国」を意味する。燃料サイクルを完成しており、決意さえすれば6カ月以内に核兵器を製造できると評されている日本とドイツのような国の話だ。

 ソン元長官がみるところ、「大韓民国を潜在的核保有国に」という大韓民国号の航路変更は、朝鮮半島を覆う「各自が生き残りをかける『新世界』」で漂流しないよう、「国家政策の戦略的自律性を拡大」する中核となる手段だ。それを通じて、依然として「核依存型」である韓米同盟を「自立型同盟」に再構築し、北朝鮮に対しては「『共存と抑止』の過程を経て、『力の勝敗』の段階に達することになる『キッシンジャーのデタント』効果」を念頭に置こうと主張する。ソン元長官が北朝鮮を「同胞」ではなく「正常な隣人」として扱いつつ、統一を「勝ち取るべき目標」ではなく「近づける結果」に設定しようと提案する理由だ。「自立型同盟」に生まれ変わるためには、米国が握る戦時作戦統制権の返還は当然実現しなければならない。

 ソン元長官は、2022年10月からの3年ほどの間「考えを紙に落とし込む」苦しい時間を過ごした。新著はその苦しみの産物だ。ソン元長官は「現在はもちろん、かなり遠い未来にまで韓国に与えられた条件を考えれば、最善の道だと信じているだけ」だと「冒頭」に書き記した。いまこそ討論すべきときだ。

2025/11/04 22:17
https://japan.hani.co.kr/arti/politics/54643.html

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