トランプ式の「アンカリング効果」【コラム】

投稿者: | 2025年11月8日

 取引や交渉をする際、最初の提案が最終決定に影響を及ぼす場合がある。経済学ではこれを「アンカリング効果」という。人々が判断をする時、選択の出発点として提示された値や提案に影響され、認知的バイアスを持つようになるために現れる現象だ。

 このような点を利用して最初から極端な提案をする交渉家たちがいる。ドナルド・トランプ米大統領が代表的な事例だ。伝統的な交渉理論では、このような戦略が必ずしも効果的ではないとみている。極端な立場から交渉を始めれば、信頼に値しない相手と見なされ、追加交渉に進まない可能性があるからだ。ところがトランプ大統領はこのような戦略で関税交渉で効果をあげている。とんでもないが、大胆な最初の提案を持ち掛け、相手の基準点を自分の方へと移す「トランプ式のアンカリング効果」と言える。

 トランプ大統領は自伝『取引の技術』(原題:The Art of Deal)で、自身の交渉戦略をこのように説明する。「私の取引方法は非常に単純でストレートだ。私は目標を非常に高く設定し、私が望むことを得るために押して、押して、押し進める」。トランプ大統領が脅迫も辞さず、最後通告をして、撤退すると脅すのもその一環だ。交渉家が(自分の望みを)どこまで押し通せるのかは、結局、彼が使えるレバレッジ(テコ)にかかっている。トランプ大統領のやり方が効果を発揮するのは、世界で最も強力な交渉レバレッジを保有している米国の大統領だからこそなせる業だ。要求を断ったら報復の対象になり、莫大な損害を受けかねないから、応じないわけにはいかない。

 交渉論の専門家である米国ペンシルベニア大学経営大学院(ウォートン・スクール)のリチャード・シェル教授は「トランプは攻撃的かつ執拗で、勝ち負けがはっきりしている交渉家であり、高い目標を設定し、相手の動機を把握してレバレッジを作り、認識を操作して、交渉の範囲を自分に有利に固定する」と分析する。シェル教授は「このような極端なスタイルを無力化する唯一の信頼できる方法は、トランプに近い交渉助言者の一人が言ったように、『勇気をもって自分の立場を最後まで貫くこと』だ」と述べた。

 関税交渉で韓国が日本より相対的に良い結果を引き出したのも、このような執拗な対応が功を奏したからだ。ところが、ハーワード・ラトニック米商務長官は先月30日、「半導体関税は今回の合意の一部ではない」とし、韓国政府の発表内容とは多少異なる主張を展開した。また別の交渉戦略である可能性もある。全てが終わるまで、結果はわからない(It ain’t over till it’s over)。

2025/11/03 18:42
https://japan.hani.co.kr/arti/opinion/54675.html

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