乙巳年はやはり無事には終わらなかった【コラム】

投稿者: | 2025年11月17日

 11月17日、今日は乙巳条約の締結日だ。120年前の今日、命をかけて国を守ると言っていた大韓帝国の大臣たちは、伊藤博文の脅迫、無理強い、懐柔に屈服。韓国人の間で最も悪名高い条約として刻印されている文書が作成された。亡国への大道が切り開かれた。その4カ月前、日本は覚書というかたちで米国と「桂-タフト密約」を結んでいた。米国が日本による韓国支配を認めることを内容とするものだ。

 干支では今年も乙巳年だ。政府は綱引きの末、11月14日に米国との関税交渉を終える了解覚書(MOU)に署名した。まだ国会では、3500億ドルの対米投資MOUが国会の批准同意対象かどうかをめぐって論争が続いている。野党は、憲法の規定どおり「国や国民に重大な財政的負担をかける条約」だから批准対象だという。政府与党は、法的拘束力のないMOUはそれに該当しないという。政府は、条約とみなすと強制性を帯びるため状況の変化に対応できず、足かせになる恐れがあるという論理も展開している。

 もし今回の合意に条約という名前がついたり、そのように性格を規定してしまうと、「新乙巳条約」だと皮肉る人が登場しうる。政府には、条約という言葉をとうしても避けたい理由がもう一つあるわけだ。交渉初期に米国から、いつでも自分たちの望む投資先に投資できる3500億ドルをよこせと要求され、政府の一部からは「第2の乙巳条約か」という声もあがったという。

 大韓帝国を日本の保護国にした乙巳條約と今回の交渉は、明らかに次元の違う問題ではある。120年前、日本は隣国を丸のみする過程にあった。大韓帝国の大臣たちは、朝は「絶対反対」を叫び、夜には違うことことを言って、文字通り朝令暮改をやっていた。今回、政府は米国の荒唐無稽な要求をそのまま受け入れることのないよう東奔西走した。だから善戦したとか、最悪は回避したという評価もある。

 しかし、やられたのは確かだ。大金をささげねばならず、経済主権も傷ついた。現代世界で他国をこのように略奪した例は、簡単には思い浮かばない。方法も想像を絶する。交渉、取引とは何か。「私はこれをやるからあなたは他のものをくれ」というのが、交渉と取引の基本原理を表現する言葉だろう。トランプも取引だと言っている。しかし、彼がくれるというものは肯定的な対価ではない。両手に大きな棒と小さな棒を持って、小さな棒で殴られたいなら何かをよこせという具合だ。引き出したものはあるから、最初に切ろうとしていた腕の代わりに指を切るだけにしておいてやるといった具合だ。米国は、以前にはなかった25%の関税を課し、巨額の資金を受け取る見返りに15%に引き下げるというやり方で、恩を着せてくる。金を得たらそれ以上は相手を傷つけないやくざや強盗も舌を巻く。

 民法は、このように常識や健全な倫理感情、すなわち社会常規に反する契約は、「反社会秩序の法律行為」であるため無効とみなす。人の窮迫を利用した顕著に公正性を欠いた法律行為も、同じ脈絡から「不公正な法律行為」と規定している。

 国際関係に韓国民法の条項を当てはめたところで、虚しくはある。しかし事案の深刻さを考慮すれば、「与えられた条件の下で最善を尽くした」と言って状況論ないし現実論にとどまることはできない。政府は、日本よりはましな条件で妥結したと説明する。しかし米国による世界を相手にした「関税戦争」で、腕をねじり上げられて政府が現金投資を約束させられたのは、韓日のみだ。日本が韓国より悪条件だとしたら、日本はビリ扱い、韓国は後ろから2番目ということになる。隣はもっとひどい目にあったのだから、自分の家に降りかかった不幸はまだましだと自慰することはできる。そうしたところで不幸がどこかへ行ってくれるわけではない。

 考えてみれば、120年前の乙巳年と今回の乙巳年の間に挟まれた1965年の乙巳年も、静かな年ではなかった。朴正熙(パク・チョンヒ)政権による「韓日国交正常化」の過程で、韓国社会は困難に直面した。その年には、韓国軍のベトナム戦争への戦闘兵の派兵が始まってもいる。数多くの韓国の若者たちが、遺体となってようやくジャングルから帰ってきた。1905、1965、2025年の3つの乙巳年は、いずれも韓米日が絡み合う混乱した時期だった。韓国はいつも被害国だった。

 現実的であるべきではあるものの、「現実とはそもそもそういうものだ」という理由で問題意識すら曖昧にしてはならない。「非自発的な交渉をしなければならない」状況において「私たちの持つ唯一の力」は「耐えること」だったという李在明(イ・ジェミョン)大統領の記者会見での発言は、ため息のように聞こえた。今日の私たちが腐心しておかないと、後代が迎える次の乙巳年にも無念な出来事が起きるだろう。

2025/11/17 05:00
https://japan.hani.co.kr/arti/opinion/54744.html

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