[山口二郎コラム]自民党70周年と高市政権

投稿者: | 2025年11月24日

 11月15日に自民党は結党70周年を迎えた。この党は、冷戦対立が激しい時代に、共産主義に反対する保守政党をまとめることで作られた。だから、自民党の1つの柱は共産主義に反対し、資本主義体制を守ることである。しかし、それだけでは広い支持を得られなかった。自民党は、様々な階層、地域、集団の要求に応え、幅広く利益配分を行うことで、政治学用語で言えば包括政党(キャッチオール政党)であることで政権を保ってきた。つまり思想的な志向性と、党としての現実的な判断を両立させたことが、長期政権の秘訣であった。過去の優れた自民党のリーダーには、強い反共思想を持ちながら、国内外のバランスを重視して、慎重な政権運営を行う政治家が多かった。1980年代の中曽根康弘などはその典型であろう。

 結党70年の節目に、初の女性総裁となった高市早苗首相は、就任早々現実的判断力の欠如を露呈した。11月7日の衆院予算委で、野党議員からいわゆる台湾有事への日本の対応について問われて、首相は「戦艦を使って武力の行使も伴うものであれば、どう考えても存立危機事態になり得る」と答弁した。存立危機事態とは、日本と密接な関係にある外国がほかの国から攻撃を受けた際に日本自身の存立が危機に陥り、自衛隊による実力行使が可能になる状態である。台湾有事の際に武力行使をするのは中国しかありえないので、この発言は中国が武力によって台湾統一に乗り出す場合、日本も参戦する可能性があると首相が述べたことになる。

 2015年に日本では安保法制が制定され、集団的自衛権の行使が可能となった。しかし、具体的にどのような場合に集団的自衛権を行使するのか、すなわち、日本が攻撃を受けなくても他国のために自衛隊の武力行使を認めるのかについては、歴代の政府は明言を避けてきた。中国に対する武力行使に言及すること自体が、緊張を著しく高めるためである。その点で、高市首相は独自色にこだわり、従来の日本政府の方針を転換した。

 また、首相は、すでに防衛費の増額を急ぐことを対米公約としているが、さらに非核三原則(核兵器をつくらない、持たない、持ち込ませない)の見直しにも言及した。日本の平和主義の転換に躍起になっているという印象である。

 高市首相の最大の問題点は、自民党の2つの柱のうちで、バランスや現実主義を無視し、イデオロギー色だけを振りかざしている点である。彼女は、9月の自民党総裁選の時から、最も熱心な高市支持者を喜ばせるために、排外主義をあおるような発言を繰り返してきた。今回の台湾有事に関する発言もその延長線上にある。日本の国会審議において、野党側は事前に重要な質問項目を政府側に伝え、政府中枢では担当官僚が集まって、従来の政府の方針や国会答弁などを踏まえて、答弁原稿を用意する。政治家の個性が殺されるという批判もあるが、重要政策に関する継続性はこれで担保される。

 しかし、首相はそれをあえて無視したと思われる。先に引用した答弁の中で「戦艦」という言葉が使われているのがその証拠である。中国海軍は戦艦を保有しておらず、防衛省から出向している首相秘書官が答弁原稿を書くときにそのような間違いをするはずはない。首相は軍艦のつもりで戦艦という言葉を使ったのであろう。国の重要方針は、国会における十分な議論や選挙における国民の意思表示を経て変更すべきであって、首相の短慮で変えるべきではない。

 さらに大きな問題は、世論調査で内閣支持率が約70%と、極めて高い水準を続けている点である。多くの国民は、首相が緊張をあおることの危険を的確に理解していないと言わざるを得ない。他国に対して武力行使をいとわないと威勢の良いことを言う政治家が国を亡ぼすという失敗を、戦後80年の今、繰り返してはならない。

山口二郎|法政大学法学科教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr)

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