最近、外国で起きた事件の中で私たちが注目すべきなのは、まさにオランダで起きたいわゆる「ネクスペリア事態」だ。「ネクスペリア」はオランダに本社がある先端半導体メーカーであり、2019年以降は「ウイングテック」という中国大企業によって運営されてきた。中国の半導体産業の発展を阻止しようとするドナルド・トランプ政権は、ヨーロッパの半導体メーカーの経営権を中国会社が握っている状況を快く思わなかった。米国の圧力が功を奏したのか、オランダ政府は10月、「物資確保法(Goods Availability Act)」という戒厳に近い法律を緊急発動し、ネクスペリアの中国人最高経営者を強制的に解任したうえ、会社の経営権を掌握する史上初の措置に出た。いわば、行政力を動員してヨーロッパ所在の中国企業を掌握したのである。
この挑戦に中国は直ちに応戦した。ネクスペリア本社が中国工場に送っていたウェハー出荷を中断し、中国政府は中国で包装されたネクスペリアチップに対する輸出規制を導入した。このチップに依存してきた欧州の完成車メーカーと部品供給会社が直ちに悲鳴を上げた。中国はこれに止まらず、問題の震源地とされた米国を直接打撃する措置を取った。すなわち、輸出統制対象であるレアアースの種類を拡大し、国外で中国産レアアースとレアアース関連技術を活用して生産する製品も規制対象に加えた。高級リチウムイオンバッテリーと人工ダイヤモンドの輸出規制計画も追加した。人工ダイヤモンドは超精密半導体、レーザー、航空宇宙装備などにおいて重要な要材料として使われており、米国が消費する人工ダイヤモンド粉末の77%が中国が供給してきた。すなわち、中国の対応措置はまさに米国先端産業の「心臓」を正確に狙ったものだった。
中国政府の思惑は的中した。「半導体戦争」を起こした米国とこれに付和雷同したヨーロッパは一歩引かざるを得なかった。米国のドナルド・トランプ大統領と中国の習近平主席が釜山(プサン)で会談し、米国に輸出される中国商品に対する関税引き下げと中国のレアアース輸出統制措置の猶予を骨子とした妥協案を出した。結局、オランダ政府もネクスペリアに対する差し押さえを一時中断する妥協的措置を取らざるを得なかった。「中国が勝った」というのが、この事態の推移を見守ってきたヨーロッパ内の専門家たちの一致した判断だ。
中国がこのように貿易戦で勝利を収めることができた理由は簡単だ。2020年代半ば以降の世界で、西欧勢力は第一次アヘン戦争以来初めて、「非西欧世界」を圧倒できるいかなる決定的な優位ももはや持っていないからだ。もちろん米国の軍事力は当分「世界1位」を維持するだろうが、核保有国である中国、ロシア、北朝鮮を相手に自ら戦争を遂行することは事実上不可能に近い。したがって「世界1位の軍事力」は必ずしもライバルの大国たちを圧倒できる圧力を意味するわけではない。
米ドルは依然として世界の基軸通貨の役割を果たしているが、中国はドイツより10倍、日本より3倍も大きい世界最大の外貨準備高を保有している。中国とASEANが世界の製造業で占める比率(約35%)は西欧圏(約32%)より大きく、ネクスペリア事態が示したように中国との「デカップリング(分離)」は事実上不可能だ。すでに中国は世界のサプライチェーンで中核的な位置を占めており、韓国を含め世界経済の約70%を占める145カ国にとって中国は最大の貿易パートナーだ。このため、中国を相手にするにあたって、米国の外交力は限られる。さらに、西側の全般的な支援を受けるイスラエルがガザで行った虐殺などで、欧米圏の道徳的名目も地に落ちた。欧米圏は「力」とともに「権威」も失ったのだ。
「ポスト西欧世界(post-Westernworld)」の出現を決定的に加速化させたのは、1980年代初め以降、中国(多くの非西欧諸国)と欧米圏が取った相反する政策路線だった。中国の党・国家主導資本主義は産業政策を通じた先端工業の建設、すなわち世界における製造業覇権の争取を可能にし、制限的ではあるものの再分配政策を通じた社会統合を引き出した。一方、欧米圏の短期利潤中心の新自由主義政策は製造業の空洞化とインフラの立ち遅れ、そして製造業からサービス業への移動を余儀なくされた数多くの労働者の地位下落を招いた。民主主義が国家アイデンティティの中心である欧米圏で、地位の下落と相対的貧困化に怒った大衆は主流政治に対する信頼を失い、トランプ大統領のような極右に権力を与えた。そして、その瞬間、民主主義も崩れた。トランプ大統領率いる米国で移民・税関捜査局の職員が合法的に米国に滞在する外国人まで無差別的に取り締まる光景は、世界の人々に「これはならず者国家のやり方だ。米国を果たして民主主義国家といえるのか」という疑念を抱かせた。欧米圏の全般的衰退を招いた新自由主義は、欧米圏の最高の長所である民主主義をも形骸化させてしまった。
韓国にとってポスト西欧世界の到来は「危機」というより「チャンス」に近い。米国の孤立主義への回帰と全体的な国力の低下が「安全保障の空白」を招くという見方もあるが、最終的には韓国が自主国防を前提に米国の介入に依存しない地域的安保構図を作っていくことが望ましいだろう。韓国の輸出において欧米圏と日本の比重よりは中国とASEANの比重がさらに高く、韓国の文化商品は欧米圏以上に非西欧圏でよく売れている。発展国家モデルを実践した経験を持つ韓国は、必要に応じてポスト西欧世界でさらに一般化しつつある国家主導の産業政策を実施する能力も備えている。
問題は、韓国も欧米圏に劣らず新自由主義の後遺症に悩んでいるということだ。内乱局面で民主主義を守ったが、未来の希望を奪われた社会では民主主義がいとも簡単に形骸化してしまう。今も一部で欧米圏の極右と全く変わらない様々な嫌中感情や陰謀論が後を絶たない。内乱の主犯である尹錫悦(ユン・ソクヨル)前大統領をはじめとする多くの反民主主義志向の極右が21世紀の韓国で大統領になれたのも、結局、暮らしの問題が解決されずに残っていたからだ。世界的危機の中で韓国民主主義が健在するためには、ひとまず不安定労働問題の解決と再分配正義の実現、福祉国家の建設が先行されなければならないだろう。
2025/12/03 08:07
https://japan.hani.co.kr/arti/opinion/54888.html