「韓国は安保を米国のみに依存すべきでない…超党派的な対応と『自強』に努めよ」

投稿者: | 2025年12月12日

 「米国を再び偉大に(MAGA)」というスローガンを掲げる第2期トランプ政権の登場後、韓国外交は「袋小路」に入り込んでしまったように感じる。朝鮮戦争の停戦から70年あまりの間、韓国安保の基軸役を果たしてきた韓米同盟は大きく揺らいでおり、今、韓国が謳歌(おうか)している繁栄の土台となってきた自由貿易秩序は苛酷な「トランプ関税」で事実上崩壊した。1980年代末の「冷戦終結」とともに韓国を襲った大きな「戦略的挑戦」だった北朝鮮の核問題も、事実上「解決不能」状態に陥ってしまった。韓国保守の根本的教理だった「韓米同盟の強化」と、進歩の政策的出発点だった「南北関係の改善」が、いずれも不可能になってしまったのだ。このような変化によって、外交安保政策をめぐる進歩と保守との政策の対立軸も以前より緩んでいる。保守の側では現在、韓国が直面している状況をどのように理解しているのだろうか。李明博(イ・ミョンバク)政権で大統領府の外交安保首席(2010年10月~2013年2月)を務めたチョン・ヨンウ韓半島未来フォーラム理事長は3日、ハンギョレの取材に応じ、「対米依存を弱め、自強に努めるべきだ」と述べた。各論では意見の相違もあるものの、総論では進歩側の診断と大きな違いはなかった。

-第2期トランプ政権の登場ですべてが変わった。

 「現状が非常に混乱しているということに、長い説明は必要ない。トランプ政権の登場で、米国は自由主義国際秩序の『守護者』から『破壊者』になった。私たちは米国によって作られた自由貿易秩序の大きな受恵者だが、それが揺らいでいることで手に負えない挑戦に直面している。トランプ政権の外交政策の特徴は、強者には弱く、弱者には強い『強弱弱強』だ。とりわけ同盟国に対しては過酷だ。同盟国の安保へのただ乗りはもはや容認しないという執着が、米国の同盟政策を支配している。それに比べて『大国』である中国とロシアとの交渉では、融和的な姿勢を示している。今後は朝中ロの北方三角連帯が東アジアと韓国の安保にとって大きな脅威にならざるを得ない。韓国の『死活的利益』を害する恐れのある裏取引を米国が彼らとする可能性も排除できないため、大韓民国の安保を全面的に米国のみに依存するのは危険だ。朝鮮半島をめぐる戦略地形が激動する中で、韓国の未来を左右することになるであろう選択をすべき、非常に厳しい岐路に立たされている。韓国は今後、『自強』を国家安保戦略、生存戦略の中心に据えなければならない。韓米同盟は『自強』だけでは耐えられない実存的『外部リスク』に備えるための保険だ。それだけでは足りない。脅威の認識と死活的利益を韓国と共有する日本、ベトナム、フィリピン、インドなどの域内諸国と連帯しつつ、「2次保険」をかけておくべきだ。外交安保政策において進歩と保守に違いはあり得ない。超党派的に対処しても手に負えない挑戦が押し寄せてきている」

-北朝鮮の核問題も見通しは暗い。

 「進歩政権の太陽政策であれ保守政権の対北朝鮮強硬政策であれ、韓国がこの30年あまりの間に取ってきた対北朝鮮政策はすべて失敗した。北朝鮮は結局、核を開発したし、米国まで飛んでいく大陸間弾道ミサイル(ICBM)も作った。平和の基盤はよりぜい弱になった。太陽政策を推進した大統領たちは、核を開発しようという北朝鮮の『意図』を変えるという良い考えを抱いていたが、実現できなかった。ただし、その失敗は必ずしも韓国のみの責任ではない。韓国には、北朝鮮の核武装の意志をくじくほどのレバレッジがなかった。そのような力を持つのは米国と中国だったが、彼らには北朝鮮の非核化のために自分たちの持てるあらゆる手段を動員するという政治的意志がなかった。韓国には能力がなかったし、米中は意志が足りなかった」

-北朝鮮は2019年2月の「ハノイの失敗」後、2022年9月に先制核攻撃を可能とする核ドクトリンを打ち出し、続いて2023年末に「敵対的二国家論」を打ち出した。李在明(イ・ジェミョン)大統領も現在の南北関係について「針の穴さえない状況」だと述べている。

 「南北関係は事実上、終わったと考えるのが正しいのではないか。北朝鮮が打ち出した『敵対的二国家論』は攻勢的な語りであるにもかかわらず、基本的に防衛的で守勢的だ。金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が長きにわたって苦悩した末に下した、変更しようのない決断だとみられる。祖父の代からずっと続いてきた『一つの朝鮮政策』の放棄は、北朝鮮の立場からしても自分たちの正当性の根拠を自ら掘り崩すものだ。にもかかわらずこのような選択をしたのは、韓国との体制競争でとうてい勝ち目はないという現実認識とともに、韓国文化の浸透と吸収統一に対する恐怖心があるからだと思う。北朝鮮は、対外的には虚勢を張っているが、内部はぜい弱だ。『反動思想文化排撃法』(2020年12月制定)のような一連の立法によって韓国から押し寄せる『反動文化思想』のウイルスを遮断するとともに、それによって住民の思想的動揺を防ごうともがいてきたが、役に立っていない。結局は『韓国はもはや同じ民族でもないし、相容れない敵対国家』だと規定し、北朝鮮住民の頭の中から韓国という憧れの対象を消し去ろうとしている」

-進歩側の一部は、北朝鮮の主張する「二国家」を受け入れて「平和的二国家」を作っていこうと主張している。

 「北朝鮮に南北関係を敵対的な方向へと持っていくつもりがなかったのなら、二国家論を掲げる必要はなかった。北朝鮮政権の安全保障のためには、南北関係は敵対的でなければならない。韓国が主張するように友好的に交流したら、韓国の文化や思想の浸透は防げないし、それは北朝鮮の体制をさらに危険にさらす。金委員長は政権を守る『最後の盾』として永久分断を選択したのだ。統一に対する未練を捨て、韓国との交流協力をすべて止めるという論理だ。このような状況においては、韓国が『来年初めにあなたたちの嫌う韓米合同訓練はしないから、会って話そう』と言っても、効果はないと思う。

 しかし、韓国も二国家論は受け入れられない。北朝鮮に今後何が起こるか分からない。思いがけず変事が起きた時、韓国が介入する根拠は持っておかなければならない。積極的な統一政策は推進しなくても、北朝鮮の内部事情によって機会が自然に訪れた時、『歴史の中を通り過ぎる神の裾』をつかむ大義名分と根拠は生かさなければならない。1991年12月の南北基本合意書は、その前文で南北関係を『国と国との間柄ではなく、統一を指向する過程で暫定的に形成される特殊関係』と規定している。南北はあの年に国連に同時加入してはいるものの、互いに相手のことを(別の)主権国家としては認めないということだ。このことに対しては中ロも文句は言えない。この特殊関係を放棄すれば、いつか『千秋の恨事』になりうる」

-李在明政権も困難を認識しているようにみえる。米国の役割を強調する「ピースメーカー・ペースメーカー論」、非核化を前面に掲げずに交流と関係正常化を強調する「ENDイニシアチブ」などがその例だ。

 「トランプ大統領の歓心を買うレトリックとしてはよいが、現実性はない。トランプが北朝鮮の核保有の容認、正当化を自制しさえすればよい。エンドであれ何であれ、非核化が進展したら奇跡だ」

-李在明政権は先の韓米首脳会談で、長きにわたる韓国の宿願だった濃縮、再処理と原子力潜水艦の建造に対して、米国から支持と承認を得たが。

 「大きな成果だが、過程についての約束に過ぎず、結果に対してはまだ約束したものが一つもないというのが少し残念だ。まず濃縮と再処理を考えてみよう。この2つは区別して考えるべきだ。濃縮は必ずやるべきだ。現在の韓米原子力協定の下でも、米国製のウランや米国の装置を使わないなら、米国の同意を得なくても韓国自ら濃縮できる。このかん研究開発してあるものがないため、やりたくてもできないが、政治的意志もなかった。濃縮技術は、いくら近い同盟国でも絶対に提供しない。自ら開発しなければならない。米国は1987年の日米原子力協定で、日本に濃縮に対する包括的な事前同意を与えた。だが日本は、その時点ですでにパイロットプラント(商業生産前の小規模な試験設備)を稼動するなど、すでに技術を有していた。技術を保有している国に対しては承認を拒否できない。米国が韓国に技術を提供するはずもないし、装置をくれるはずもない。韓国が独自開発しなければならない。複数の原子力専門家に聞いてみたら、韓国ほどの産業技術力なら、今から研究開発を行えば5年内に少なくともパイロットプラントぐらいは作れるという。商業用施設を作るには10年はかかる。韓国は20基以上の原子炉を稼動させている国だ。電力供給の3分の1ほどを原発に依存する国が原発の燃料を全面的に輸入のみに依存しているというのは、自国の運命を外国の濃縮独寡占企業に預けている格好だ(韓国水力原子力によると、2020~2024年の濃縮ウランの供給元の割合はフランス(38%)、ロシア(32%)、英国(25%)、中国(5%))。そのような意味で『エネルギー安全保障』のために独自の濃縮施設を持つというのは、誰も文句を言えない堂々とした大義名分になる。しかし、技術は誰も与えてくれない。独自開発しなければならない。

 再処理は異なる。米国の同意が必要だ。韓米が共同開発しているパイロプロセッシングという技術は、まだ商用化されていない。権限を得ても問題だ。国内で再処理施設の用地を探すのが難しいだけでなく、再処理によって出るプルトニウムを使う場所がない。それを用いて発電できる『高速増殖炉』をまず開発しなければならない。日本やフランスなどで開発中だが、成功できていない。再処理は急を要する問題ではない」

-原子力潜水艦の導入をどうみるか。

 「もともとこういうものは保守が好むものだが、進歩政権が推進するのは不思議だ。海軍の潜水艦の元艦長の中でも最高のエリートは、この計画に反対している。海軍指揮部がやると言っているから、公に声をあげないに過ぎない。

 根本的な問題は、原潜が果たして北朝鮮の潜水艦に対して効果的なのか、だ。核ミサイルを搭載した北朝鮮の潜水艦を捕捉するには、彼らが隠れている可能性の高い北朝鮮の水深の浅い沿岸や内海に入っていかなければならない。そこで待ち伏せし、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)が発射される前に撃沈しなければならない。この作戦には小さな従来の潜水艦の方が有利だ。今回、ポーランド海軍の潜水艦の受注競争でスウェーデンに負けたのも、海軍の最新鋭潜水艦「張保皐(チャン・ボゴ)3」(3000トン級)が大きすぎるからだ。水深の浅いバルト海でロシアの潜水艦を監視するには、大きければ大きいほど不利だ。北朝鮮も同じだ。北朝鮮の立場からすれば最も大切な2次核攻撃の手段が潜水艦であり、内海には安全に隠しておける場所が多いのに、なぜあえて米国の原潜がうろつく危険な外海に出すのか。北朝鮮の潜水艦は射程距離が2000キロを超えるSLBMを搭載している。内海から安全に発射できる。だから、内海に隠れている北朝鮮の潜水艦が最も危険なのだ。

 従来の潜水艦を見くびる国は韓国しか存在しない。通常の潜水艦は水中ではディーゼルエンジンを切ってバッテリーで動くので騒音がない一方、原潜は水中でも原子炉と冷却装置を稼動しなければならないので騒音が大きいという決定的弱点を持っている。2004年の環太平洋合同演習(RIMPAC)で、韓国の209潜水艦「張保皐」(1200トン級)が米軍の空母や巡洋艦など数隻を模擬撃沈したにもかかわらず、最後まで米国に探知されなかったのも、通常の潜水艦の卓越した静かさのおかげだ。米国は攻撃用の原潜を50隻も保有しているが、北朝鮮沿岸に入れるディーゼル潜水艦が1隻もなかったというのが、対北朝鮮水中作戦で最大の弱点だ。韓米の役割分担の観点からも、米国の原潜が接近できない海域の監視の空白を韓国のディーゼル潜水艦は埋めなければならない」

-李在明政権は、戦時作戦統制権の任期内の転換を目標に掲げている。保守では反対意見が強いが。

 「任期内の転換が不可能だとは思わない。韓米が合意した転換の『条件』の充足を急がなければならない。そのためには、北朝鮮の核ミサイルの先制使用を拒否する能力の整備が最も急がれる。抑止が失敗し、北朝鮮が実際に核を使用した時、米国にはそれを拒否する力量が足りない。そのような能力を韓国が整備するためには、有事の際、北朝鮮のすべてのミサイル基地と発射台を一挙に除去しうる玄武(ヒョンム)-5のような弾道ミサイル戦力を大々的に増強するとともに、多層ミサイル防衛網もきめ細かく整備しなければならない。ただし、軍を政治化したり、多くのエリート将校を政治的理由で粛清したりすると、戦作権を持ってもまともに行使できない」

-最後に、中国との関係はどのようにしていくべきか。

 「親しくなろうと努める必要はあまりない。中国の習近平国家主席の追求する『中国夢』は、韓国にとっては悪夢であり災厄だ。中国は安保分野だけでなく、経済分野でも韓国にとって大きな挑戦になりつつある。対北朝鮮政策についても、中国に頼る考えは捨てるべきだ。北朝鮮の同盟国であり北朝鮮をかばう中国が、南北の『公正な仲裁者』になることはあり得ない。中国に過剰に依存しているレアアースなどの最重要鉱物と素材のサプライチェーンを多角化して、自国の安保上の目的の達成のために韓国に対して経済的強圧手段を振り回させないようにすると同時に、中国の横暴に対抗する先端技術や素材・部品の市場支配力を確保することが、対中政策の最も重要な課題だ。その一方で協力すべきは協力しつつ、関係を淡々と管理していくべきだ。これからは私たちが暮らしたことのない世界が繰り広げられる。与野、進歩と保守が共に膝を突き合わせて対応しなければならない。外交安保問題は党派的に考えてはならない」

2025/12/09 16:05
https://japan.hani.co.kr/arti/politics/54946.html

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