劣等感が生んだトランプ大統領の大袈裟な発言、能力主義に頼った新右派の言語

投稿者: | 2025年12月20日

 ドナルド・トランプ米大統領から韓国の「新右派(ニューライト)」と日本の「ネット右翼」まで、革新的価値に対するあからさまな反感と他者への嫌悪を彼らの「言語」と分析した研究が出てきた。ハンギョレマルグル(言語)研究所は18日午後、ハンギョレ新聞社で「新右派の言語と民主主義」というテーマで研究発表会を開いた。今回の発表会にはロバート・ファウザー氏(米国言語学者)、キム・ソニョン東義大学教授(東アジア研究所)、シン・ドンイル中央大学教授(英語英文学)、作家のキム・チャンイン氏(青年活動家)の4人が発表者として参加した。

 また、各発表の後には、「ニューストマト」のパク・チャンシク客員論説委員、全南大学英米文化研究所のナ・イクチュ研究委員、ハンギョレ経済社会研究所のイ・ボンヒョン研究委員、ハンギョレのチョン・ヒョクジュン先任記者が指定討論者として参加した。彼らは「新右派(ニューライト)の言語」が民主主義の本質的価値と存立に根本的な質問を投げかけているとし、これを単に脅威とみて非難するだけでは、正しい解決策を見出せないという問題意識を共有し、望ましい代案についても意見を交わした。

 ハングルと韓国近代文化に精通したロバート・ファウザー氏は「ドナルド・トランプの言語:ナルシシズムと他者化の政治的戦略」を分析した。トランプ氏のナルシシズム(自己愛)と他者化(他者の人格を対象化・物象化)戦略が分かっていれば、一見暴言にしか見えない彼の言葉に潜む政治的意図だけでなく、米国と世界の民主主義に影を落とす危険性まで見えてくるからだ。

 ニューヨーク郊外生まれのトランプ氏は、不動産賃貸業で富を築いた父親の支援で、1971年に中心部のマンハッタンに定着し、不動産開発に飛び込んだ。しかし、マンハッタンの上流社会は彼を仲間として認めようとしなかった。ただでさえ普段、父親から認められることを切望していたトランプ氏にとって、ニューヨーク主流社会の無視は劣等感と恨みに油を注ぐものだった。このような心理が、他人、特に自分より弱者に見えたり、自分を認めない人に対する他者化として表れた。

 「トランプ氏は世の中を勝者と敗者に分け、自分が勝者に属することを掲げ続けるため、自分を攻撃した人はもちろん、十分に称賛しなかった人、コードが違う人、何か合わない人は誰でも敗者として他者化」する。これにはトランプ氏が駆使する大袈裟な言葉に現れているが、明らかな嘘だけでなく、自分を被害者化するレトリック、自分に感嘆する人に対する大袈裟な称賛も含まれている。

 「賢い人たちは私のことを嫌う」という冗談、「私は皆さんの戦士、私は皆さんの正義、そして不当な待遇を受けて裏切られた人々のため、私は皆さんの報復です」のような宣言は、劣等感の現れであるとともに、自分を被害者化するレトリックというのがファウザー氏の分析だ。ファウザー氏はトランプ氏が劣等感を隠すために使う「大袈裟なレトリック」を3つの形に分けた。果てしない自慢、利用価値のある人に対する過剰な称賛、自分の主張を裏付けるための事実とものごとの誇張だ。

 「私は歴史上最も偉大な記憶力を持つ天才」、「時には自画自賛をしなければならない。なぜなら、他の誰もそうしてくれないから」、「私が就任してから、卵の値段が93、94%も下がった」、「金正恩(キム・ジョンウン北朝鮮)委員長は、自分の国のための偉大で美しいビジョンを持っており(…)正しいことをするだろう。彼はあまりにも賢いため、それをせずにはいられない」という発言はごく一部の事例に過ぎない。

 東義大学東アジア研究所のキム・ソンヨン研究教授は「韓国の新右派青年と日本のネット右翼の言語を比較分析」した。キム教授は特に韓国「イデナム(20代男性)」の主要公論場のオンラインコミュニティ「フェムコ(FMKorea)」の言語と効果に注目した。第一に、自分たちだけの語法で内部結束を固め、外部の進入障壁と排他性を強化する。例えば、「ブドウ(偽り)」、「サムギョプサル(真実)」、「ウェノジャ(外国人労働者)」のような隠語を使い、複雑な社会問題を単純化・戯化するミーム(Meme、オンラインで流行する風刺と模倣の記号またはイメージ)を作って消費する。第二に、資料と「ファクト」の選択的活用を通じた内部主張の合理化だ。第三に、「能力主義に基づいた公正」の概念と「反フェミニズム」フレームの全面的活用だ。フェムコの利用者たちは自分たちが男性という理由で「逆差別」を受けているという強い被害意識を共有しているが、これは「ポンポンナム」(台所洗剤のポンポンと男性の意味するナムを組み合わせたもの)のように、特定集団を卑下したり嘲弄する表現として現れる場合もある。

 日本では1990年代後半から現れた反韓・反中感情が2000年代に入ってより一層深化し「ネット右翼」が登場した。代表的なプラットフォームの一つが1999年に開設された匿名のオンラインコミュニティ「2ch(2チャンネル)」で、2017年からは「5ch(5チャンネル)」に改称した。極右団体「在日特権を許さない市民の会(在特会)」もこのチャンネルを積極的に活用した。在日コリアンに向けた嫌悪言説の土台には、自分たちの不満を代弁しない核心的価値や革新勢力に対する根深い反感があるというのがキム教授の分析だ。潜在的責任と複雑な論争を避けるために、攻撃対象にしやすい社会的弱者集団を嫌悪の投射対象にするのだ。

 韓国の新右派と日本のネット右翼がそれぞれ「フェミニズム」と「コリアン」を嫌悪対象とする背景には、「公正性」と「能力主義」という共通の動機がある。現実では多様な社会・経済的背景と構造的不平等が存在するが、彼らはそのような問題を改善するより、自分たちの被害意識と特定集団を他者化する論理に頼っている。

 キム教授は新右派の嫌悪発話への対応として、激しい競争、不安、剥奪感など社会システム全般の問題の改善▽公共レベルの政策的介入(嫌悪プラットフォームの規制、デジタル・リテラシー教育の強化)を強調した。

 中央大学校英語英文学科のシン・ドンイル教授は「イ・ジュンソク(議員)の言説戦略と政治的効果」を分析した。シン教授は、「イ・ジュンソクの言説」が「『能力はあるがチャンスを遮断された青年男性』、あるいは『合理的保守主義者』などを被害者と呼び、彼らを新しい政治的主体として形成するテクニック」だと分析した。「単純で短い言語を使いながら、常識に訴え、エリートと既得権力を批判」し、「類似の文章(構造)を繰り返し」、「直ちに話題を導入し、反論し、転換し、終結できる口述討論やオンライン掲示板によく登場」するという点で、イ・ジュンソク議員はポピュリストとしての顔を持っている。

 イ・ジュンソク議員には独自の特徴があるが、「既成世代の言語からの脱却を目指し、『青年らしさ』と『脱エリート』スタイル」を誇示しながら、同時に「エリート的スタイルもあきらめず自らを合理主義者と称する」一種の「ジャンル混合スタイルの戦略」を駆使する。イ議員も典型的なポピュリズム戦略を使うが、従来のポピュリズムが連想させる固定観念とは異なる韓国的、制度的、合理的なポピュリズムで大衆に訴えかけている。シン教授は「社会的多数が批判的ランゲージ・センシティビティと政治言語の解釈能力が弱いと、ポピュリスト政治家が大衆情緒を簡単に組織し再生産できる」と警告した。

 20代の若者団体の活動家であり作家のキム・チャンイン氏は「政治の失敗、民主主義に対する誤解、そして歪曲された青年言説」を発表した。キム氏は2008年、韓米自由貿易協定(FTA)反対集会に参加した10代が、広場民主主義の象徴である「ろうそく世代」と呼ばれたにもかかわらず、20・30代になった今は「青年の極右化」という懸念の対象になった矛盾を鋭く指摘した。「ある瞬間、韓国の革新派がは『青年』という政治的シニフィアンを保守派に奪われた」が、それに対する「反省もなく『青年の極右化』という言葉で現状況を簡単に捉えてしまうと、青年言説を新右派に渡すはめになるだろう」と警告した。

 キム氏は「政治で青年を召還または呼名する理由」として大きく2つを挙げた。一つ目は、各政治勢力が大衆に「新しさ」をアピールしようとするシグナルであり、青年世代の票を求愛する行動。二つ目は「青年問題」という表現で本当の構造的な問題を隠蔽しようとする意図。 例えば半地下の部屋や屋上部屋、考試院(非常に狭く案かなワンルーム)など「青年住居問題」は青年たちだけが経験するのではなく、韓国社会の慢性的不動産問題の一面に過ぎない。

 キム氏は「歪曲された青年言説は革新歩派の既成世代と保守派の青年世代が対話できる空間の不在」、すなわち政治の失敗によるものだと診断した。民主主義は思想や理念ではなく制度とシステムであり、「青年言説をどのように構成するかは特定世代や陣営の所有物ではなく、韓国政治全体が共に背負わなければならない公的課題」とも述べた。さらに「青年言説を立て直す第一歩は青年を『規定』することではなく、青年が声をかけられる政治、他の陣営が互いを敵対せずに市民として認め合える政治、正義を独占せず共存を設計する政治を回復すること」だと強調した。

2025/12/19 08:47
https://japan.hani.co.kr/arti/culture/55014.html

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