欧州と米国、恋人から仇に

投稿者: | 2025年12月20日

 パパゴは国際公用語のエスペラント語でオウムを意味します。鋭い洞察と豊かな歴史的事例で武装したハンギョレのチョン・ウィギル先任記者がエスペラント語でさえずるみなさんのオウムとなり、国際ニュースの行間を分かりやすく解説します。

何が起こっているのか?

 米国と欧州の関係が破綻しつつある。米国のトランプ大統領は欧州を「敵よりも悪い同盟相手」だと随時非難してきた。あげくの果てにトランプ政権は、今月4日(現地時間)に発表した「国家安全保障戦略(NSS)」で、欧州のことを「文明の消滅」に直面しているとして、「20年以内に見分けがつかなくなるだろう」と規定した。最大の強力な同盟として戦後の国際秩序を支えてきた米国と欧州の関係の破綻は、国際社会における欧州の比重の弱まりと、自由主義国際秩序の防衛と維持という役割を放棄したトランプ政権の新たな対外路線とが重なった結果だ。ウクライナ戦争は関係破綻の雷管となりつつある。編集者

Q.トランプ政権は近ごろ、欧州について何と言っているのか。

 A.4日の国家安全保障戦略(NSS)の発表前後にトランプは、欧州に対する中傷を強めている。彼は9日に公開されたポリティコとの会見で、欧州のことを「軟弱な人々によって主導される、衰退する国の集団」だと述べた。彼はロンドンとパリが移民のせいで「もはや見分けがつかない」状態になっているとも言っている。彼は2月の閣議で「欧州連合(EU)は米国をゆするために作られた」と極言している。

Q.欧州に対するトランプの批判は初めてではないのでは?

 A.1期目の政権発足当初からNATO(北大西洋条約機構)の防衛費分担問題で欧州を批判しており、今や内政干渉にまで至っている。

 彼は1期目の就任直前の2017年1月15日の英国のタイムズなどとの会見で、「NATOは時代遅れで役立たず」だと述べ、NATOの防衛対象である欧州の必要性を間接的に否定しはじめた。トランプは2018年7月のNATO首脳会議で、「防衛費を国内総生産(GDP)の2%に直ちに引き上げない国は、米国が保護しないこともありうる」として、「米国はNATOとは別の道を歩むこともありうる」と述べた。ロシアのプーチン大統領との首脳会談を控えた2018年7月14日の会見では、「貿易で米国にしていることをみれば、EUは敵」だと規定した。そして2020年1月のダボスでの世界経済フォーラムでは、「欧州が攻撃されても米国は絶対に助けないし、NATOは死んだ」と発言していたことが後に暴露されている。

 トランプの再選後、2月のミュンヘン安全保障会議でバンス副大統領は「欧州をめぐる最大の脅威はロシアや中国ではなく、欧州内部の問題」だと述べつつ、極右勢力を阻むことを狙ったヘイト発言規制などは表現の自由と民主主義原則の侵害だとして欧州を批判した。トランプ政権は2期目になって、欧州の内政にまで干渉するなど、さらに乱暴になっている。

Q.トランプ政権はなぜ、あのように嫌悪と言えるほど欧州を批判しているのか。

 A.国際社会において欧州の比重は低下している。NSSは「世界のGDPにおける欧州大陸の比重は1990年の25%から現在は14%に低下している」と指摘する。実のところ、米国は2000年代のブッシュ政権の時代から「古い欧州」(当時のラムズフェルド国防長官)と言って欧州を中傷してきた。米国がアジア太平洋地域を重視する一方で欧州を見下す流れは、2000年代以降に強まってきた。今や、トランプ政権の取引主義が欧州を露骨に中傷しているのだ。

 第2期トランプ政権の発足後は、極右ポピュリズムにもとづく文化戦争を欧州へと広げているという面もある。バンス副大統領は2月に欧州の極右勢力を擁護しはじめた。今回のNSSでは「欧州の偉大な増進」と題して欧州について記述しつつ、「愛国的な欧州の諸政党の影響力の強まりは、明らかに大きな楽観の根拠を提供する」と指摘している。中道左右派が主導してきた欧州の政治や文化を、自分たちのMAGA(米国を再び偉大に)路線に塗り変えようというのだ。

 米国の国防専門メディア「ディフェンス・ワン」の10日の報道によると、主要7カ国(G7)に代わる核心5カ国(Core 5、C5)の創設も、今回のNSSの拡大版の草案には記されているという。C5は人口1億人を超える国々、すなわち米国、中国、ロシア、インド、日本で構成することが提案されているという。またディフェンス・ワンによると、草案は「欧州諸国の中のトランプ政権と性格が似ているいくつかの国との関係に集中すべきだ」として、「EUから脱退させることを目標に、オーストリア、ハンガリー、イタリア、ポーランドなどとさらに協力していくべきだ」と提案しているという。

Q.欧州側の反応はどうか。

 A.欧州側からも、もはやトランプの米国に執着するのはやめようという反応が示されている。前EU外務・安全保障政策上級代表のジョセップ・ボレルは、今回の米国のNSSは「政治的戦争宣言」だとして、「自己欺まん的で致命的な沈黙の背後に隠れてトランプが私たちの敵ではないかのようにふるまうのはやめろ」と述べた。かつて欧州理事会の議長を務めたポーランドのトゥスク首相は、「尊敬する米国の友人のみなさん、欧州はみなさんの同盟相手であり、問題ではない」と批判した。

 NATO首脳会議において防衛費問題で米国と深刻に対立した直後の2017年5月28日、ドイツのメルケル首相は「私たちが他の国々に全面的に依存できた時代は終わった。数日間にわたってそれを直に経験した」、「欧州人は私たちの運命を私たち自身の手で握らなければならない」と述べ、米国から独立した欧州を初めて主張した。だがその後、欧州の国々と指導者たちはむしろ、トランプのご機嫌取りに熱中した。最近では、ヤマ場を迎えるウクライナ戦争の終戦交渉で、基本的に米国のスカートの裾にしがみつき続けている。

Q.欧州はロシアの要求を反映した米国の終戦案を拒否するウクライナを支持してる。米国にしがみついているとのみ考えるのは難しいのではないか。

 A.欧州はウクライナ戦争において一貫性のない矛盾した態度を示しつつ、米国に追従してきた。

 戦争の火種はNATOの拡大問題だった。NATOの拡大、特にソ連を構成していた共和国への拡大には、西欧諸国はおよび腰だったし、ロシアとの関係は拡大しようとしていた。NATO拡大でドイツやフランスなどは、ロシアとの関係悪化を懸念しつつも、結局は同意するというパターンに近かった、とカーネギー財団などは分析している。2008年以降では、ソ連の構成国だったウクライナとジョージアにNATO加入資格を与える米国の「加盟行動計画(MAP)」は、独仏によって阻まれた。「いつか加盟国になるだろう」という原則的文言を入れるにとどめ、実際の加入手続きは先送りした。

 西欧諸国はソ連崩壊以降、ロシアを「協力と統合」の対象とみなしてきた。特にドイツはエネルギーや経済での協力を通してロシアとの関係を拡大する一方、東欧へと市場を拡大しようとしてきた。米国はドイツとロシアをつなぐガスパイプライン「ノルドストリーム」に反対しつつ、ドイツをはじめ欧州がロシアに依存することになるとして批判してきた。

 2014年には、ウクライナによるEU加盟の動きや親ロ政権の崩壊の中でロシアがクリミア半島を併合したほか、ドンバス内戦が起きた。ドイツとフランスはドンバス地域の高度な自治を規定するミンスク合意1、2の締結を仲裁したが、米国は消極的だった。ウクライナ戦争勃発の直前にも独仏は戦争を防ぐために外交努力を重ねたが、米国のバイデン政権は積極的に支持しなかった。戦争が勃発すると、欧州では英国がロシアに対する強硬策を主導し、戦争初期にイスタンブール平和協定に強く反対した。トランプ政権がロシアと妥協して戦争を終わらせようとしていることに対し、今度は欧州が米国を引き止めているのだ。

Q.欧州の立場はなぜ右往左往しているのか。欧州には代案がないのか。

 A.欧州は、ロシアはウクライナに苦戦するとしつつも、欧州が侵略されるという脅威論を掲げている。

 ウクライナ戦争は欧州にとっては足元に火がついたものだが、米国は戦争を押し付けておいて立ち去ろうとしている。欧州は今や、この戦争を機として独り立ちしなければならない。今年6月のNATO首脳会議で欧州の加盟国は、米国に従来の2倍を超える「GDP5%の防衛費」を要求されたにもかかわらず、受け入れた。トランプの米国をなだめつつ、自強の道を歩み出すと考えられる。

 欧州で次第に力を得つつある「ロシア脅威論」も、自強の大義名分だと考えられる。NATOのルッテ事務総長は11日に「ロシアは戦争を再び欧州に持ち込んだ」として、「私たちの祖父母や曾祖父母の世代が体験した戦争と同じような規模」になりうると警告している。欧州で第1次、第2次大戦に続いて第3次大戦が起きる可能性があるとして、ロシア脅威論を最大限あおっている。

 ロシア脅威論が長期的に欧州に安定をもたらすかは疑問だ。ドイツは、ウクライナ戦争の前はガスの32%、石油の34%、石炭の53%をロシアから輸入していた。開戦後、ロシアからのエネルギーが途絶えたことで、ドイツのエネルギー集約産業の競争力は墜落した。

 ドイツを統一したビスマルクは、「政治の秘密はロシアと良い条約を結ぶことだ」と述べた。ドイツが伝統的にロシアとの関係を安全保障の要とみなしてきたように、欧州の安保と安定にとっても、ロシアとの安定的な関係は必須条件だ。

 米国は、ロシアは侵略者であり脅威の根源だという主張を一瞬にして覆し、関係改善に乗り出した。欧州にとってもウクライナ戦争の終戦が急がれる。その後、ロシアとの関係を安定させることが独り立ちには必要だ。ウクライナ戦争が長引けば長引くほど、欧州の米国への依存は続くだろう。

2025/12/16 10:40
https://japan.hani.co.kr/arti/international/55016.html

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