#1.
太平洋戦争が勃発すると150人以上の日本の詩人・写真家・哲学者・監督・俳優など文化人が宣伝に動員されて境界地で「文化戦争」を実行した。キャラクター「フクちゃん」で有名な漫画家の横山隆一(1909~2001)も宣伝部隊の一員としてインドネシアに派遣された。横山は1944年最初の海軍宣伝物『フクチャンの潜水艦』を製作した。晩年のインタビューで、戦争の時のことを尋ねられると、横山は「それはすべてささいなことで、一度も後悔したことはない」と答えた。
#2.
映画監督の小津安二郎(1903~63)は1943~46年にシンガポールにいた。日本軍は1942~45年シンガポールを占領した。宣伝映画を製作するためだったが、製作が中止となった。小津はこの期間、『市民ケーン』など日本軍が押収した米国映画を見てテニスと水泳を楽しんだ。以降、小津が作った映画には戦争の傷痕が溶け込んでいる。彼の墓碑にはたった一文字だけ非常に大きく刻みこまれている。「無」。
暗い展示場に6つの小さな部屋、風を起こす巨大なファンが設置された。黒い畳が敷かれた各部屋に日本の古い旅館の様子、『晩春』(1949)など小津監督の映画のシーン、旭日旗に敬礼するフクちゃんの姿が入った横山の戦争期アニメ、神風特攻隊に関連した記録写真などが上映された。シンガポールのメディアアーティストであり映画監督のホー・ツーニェン氏(48)の『旅館アポリア』(2019)だ。
ソウル栗谷路(ユルゴンノ)アートソンジェセンターでホー氏の初めての韓国個人展『ホー・ツーニェン:時間とクラウド』が8月4日まで開かれる。3日、展示場で会ったホー氏は「小津とは違い、横山は自身の有名な漫画キャラクターを軍国主義キャラクターに変形させた。2つのスクリーンを通じて2人が下した選択肢を一緒に置いて眺められるようにした」と説明した。「アポリア」は一つの命題に対して証拠と反証が共存するが、どれか一つを真実と規定しにくい状態を意味する学術用語だ。タイトル通り、さまざまな人生を観照するが、日本帝国主義が掲げた「アジア性」に対する批判だけは鋭い。
多視点演劇のようなこの作品の始まりは2019年日本「あいちトリエンナーレ」だった。韓国では慰安婦被害者を描写した「平和の少女像」をめぐる検閲問題として記憶される国際美術祭だ。トリエンナーレ側はホー氏にこの地域の伝統旅館である喜楽亭に展示する作品を依頼した。ホー氏はここが神風特殊部隊と関連した場所だったことに着眼して『旅館アポリア』を完成させた。喜楽亭から出発して、神風、大東亜共栄圏、東南アジアに宣伝部隊員へと主題を発展させた。日本人キュレーター・翻訳家などと資料調査をし、やりとりした手紙を日本語ナレーションとして映像に流した。感情や解釈を入れずに事実関係を伝達する文章だ。
ホー氏は「歴史を扱う理由は私たちの現在に影響を及ぼすためだ。過去の幽霊と直面しなければ、さまざまな形となって私たちを押さえ込む」と話した。映像の中の人物は顔が消されたまま登場する。作家は「消された顔は誰でもないと同時に全ての人々でもある。もしかしたら私たち自身をそこに投射することができるという点で、過去の存在を連れてきて現在に存在させた」と説明した。
ホー氏は注目するに値する現代芸術家に与えられる「CHANEL Next Prize 2024」を受賞した。アジアを一つにしようとしていた日本の軍国主義を批判して今日の鏡とする彼の作品がアジア人の共感を得ている格好だ。
今回の展示ではシンガポール美術館・アートソンジェセンターなどが共同製作した新作『T for Time』と『Timepieces』も公開される。地下アートホールでは『未知の雲』(2011)など作家の旧作4本が上映される。観覧料は成人1万ウォン(約1140円)。
2024/06/06 09:52
https://japanese.joins.com/JArticle/319564