米国のトランプ政権が北朝鮮との対話のため、先月、韓米合同演習「乙支(ウルチ)フリーダム・シールド」(UFS)を縮小する一方で、韓米日による多領域訓練「フリーダム・エッジ」は7~11日に実施することにした。北朝鮮外務省報道官は先月31日、朝鮮中央通信を通じて発表した談話で、フリーダム・エッジについて「米国の恒久的な対朝鮮敵視政策がより危険な形へと進化している厳しい情勢局面において、いかなる緊張緩和も期待するのも無意味だ」としたうえで、「最強硬な姿勢で対応しようとする我々の対米政策はにはいささかの変化もない」と述べた。
米国はUFSを縮小したのに、北朝鮮の反発にもかかわらず、なぜフリーダム・エッジはそのまま実施するのだろうか。それは、フリーダム・エッジが中国に圧力を加え牽制する「多領域訓練」であるからだ。
多領域訓練は、「多領域作戦」の概念を反映したもの。多領域作戦とは、よく知られている地上・海上・空中に加え、線上の領域を宇宙、サイバー、電磁領域にまで拡大されたことを意味する。多領域作戦は、サイバーや宇宙を含む領域へと拡大するにつれ、紛争地域に限らず、地球規模に広がっていく。
多領域作戦は米陸軍の概念であり、教義でもある。中国の台頭とロシアの脅威に対応するために開発された。米国の多領域作戦は、脅威の主体を「2+3」(ロシア・中国+イラン・北朝鮮・過激派勢力)と設定しているが、その焦点は「2」(ロシア・中国)に当てられている。具体的には、中国の「接近阻止・領域拒否」(A2AD・Anti-Access Area Denial)戦略を無力化することを中核とする。
米国の接近を阻む中国の「接近阻止・領域拒否」戦略の範囲である第1列島線、第2列島線。イ・ソンフン 国家安保戦略研究院「アジア太平洋地域における米・中の軍事力の比較と示唆点」より抜粋//ハンギョレ新聞社
中国の「接近阻止・領域拒否」戦略は、米空母打撃群の中国への接近を阻止(接近阻止)し、仮に米空母打撃群が中国近海に接近したとしても、執拗な消耗戦を通じて自ら撤退させること(領域拒否)にある。中国の「接近阻止・領域拒否」戦略の範囲は、第1列島線(日本の九州と沖縄、台湾、フィリピンを結ぶ線)と第2列島線(日本の小笠原諸島とサイパン、グアム、インドネシアを結ぶ線)に設定されている。列島線(島々をつなぐ鎖)とは、域内の主要な海上経路と拠点を互いに結びつける仮想の境界線を指す。第1列島線と第2列島線は、中国が太平洋で米国を阻止するための防衛線だ。
第1列島線では、中国は短距離対艦ミサイル、ディーゼル潜水艦、沿岸戦闘艦、地対艦巡航ミサイル、戦闘機などを用いて、米空母の接近を阻止する。第2列島線では、中距離対艦ミサイル、通常型および原子力攻撃型潜水艦、爆撃機などを活用して、米空母の接近を拒否する。
米国の多領域作戦とは、米空母の接近を阻止しようと中国がこれまで開発・配備してきた多様なミサイルや防空システムなど、各種兵器を無力化するため、空陸海だけでなく、宇宙やサイバー、電子戦など多領域においてあらゆる手段を動員することを意味する。米インド太平洋軍司令部は昨年9月、フリーダム・エッジの実施計画を発表する際、3カ国による協力が「第1列島線内の戦力を強化する」ものになると述べた。同訓練の性格が中国牽制であることを隠さなかったのだ。
当初、米国は中国を阻止する作戦概念として「空海戦」(ASB・Air-Sea Battle)を構想した。米空軍と海軍が太平洋の空と海で合同作戦を展開し、中国の接近阻止・領域拒否体制を崩壊させるというものだった。だが、米海軍と空軍が太平洋を渡って中国近海の海域で、中国の海軍・空軍と戦闘を繰り広げるのは困難なことだ。中国が各種対艦ミサイルを配備しているため、米空母打撃群が中国近海に接近する際、被弾するリスクが大きい。
これを懸念し、米国は中国周辺にある韓国や日本といった同盟国を活用して、多領域作戦を展開しようとしている。韓米日3カ国が7日から済州の東・南方公海上で行うフリーダム・エッジは、こうした背景から生まれた。
2024年6月に行われた初の「フリーダム・エッジ」訓練の場所も、済州南方の公海だった。ここは、山東省青島を母港とする中国北海艦隊と、浙江省寧波を母港とする中国東海艦隊が太平洋へ出る要衝。韓米日3カ国による初の多領域訓練が、中国の太平洋進出を阻む戦略的要衝で実施されたのだ。その後、2024年11月、昨年9月に実施されたフリーダム・エッジの場所も済州付近の公海だった。今回の演習まで合わせると、韓米日は4回にわたるフリーダム・エッジをすべて済州付近の海で多領域演習として実施したか、あるいは実施する予定だ。フリーダム・エッジでは、海上ミサイル防衛、空中および防空訓練、対海賊訓練、対潜水艦作戦、サイバー防衛などが実施された。
韓国は、フリーダム・エッジの目的が北朝鮮の核・ミサイル脅威に備えることだと強調している。ところが、この訓練が繰り返し実施されるにつれ、韓米連合防衛体制が、朝鮮半島の防衛を中心とした構造から、中国を牽制する地域的な多領域抑止体制へと移行する契機となるのではないかという懸念の声があがっている。
2026/09/06 19:22
https://japan.hani.co.kr/arti/politics/57114.html