「孤独なグルメ」の主人公「五郎さん」が海で荒波に遭い、漂流の末に巨済島(コジェド)にたどり着いた。第29回釜山国際映画祭で世界で初公開される映画『劇映画 孤独なグルメ』の場面だ。
12年間にわたり韓国でも愛され続けたドラマ「孤独のグルメ」で、主人公の井之頭五郎を演じた松重豊は、(五郎とは違って)飛行機に乗って釜山(プサン)を訪れ、映画祭開幕式のレッドカーペットを踏んだ。この映画で主演だけでなく、監督まで務めた松重は3日、海雲台区(ヘウンデグ)の映像産業センターで開かれた懇談会で、「12年前にドラマを始めた時、おじさんがひたすらご飯を食べるドラマを誰が見るのかと心配したが、長い間愛されながら映画にまで作られて、監督としてデビューすることになるなんて、奇跡のようだ」と語った。
シリーズ初の劇場版であるこの映画は、東京テレビ開局60周年記念作だが、韓国のファンのために製作したのではないかと思えるほど、韓国の美しい島とおいしい食べ物、俳優のユ・ジェミョンまで登場する。釜山と近い福岡で生まれ育った松重は「幼い頃から韓国のラジオ放送を聞きながら、日本と近く似たような国だと思っていたが、海を渡ると同じ食材でも味が全く変わることがショックと言っていいほど不思議だった」とし、「映画を作るために韓国の多くの食材と食べ物を味わったのが自分にとっては冒険であり、楽しみだった」と語った。
当初、松重は2009年、映画『TOKYO!/シェイキング東京』への出演で知り合ったポン・ジュノ監督に演出をお願いしたという。 「ドラマとは違う血を入れたい」という考えでボン監督に手紙を送ったところ、「日程のために難しいが、完成を楽しみにしている」という返事が来た。松重さんは「ポン監督に楽しみにしていると言われたからには、必ず映画を作らなければと思い、他の監督に任せるより、いっそう自分でやろうと決めた」とし、「最近、日本のテレビ業界は大変厳しいが、スタッフに成長の契機を作りたいという思いもあった」と説明した。
映画の中で、五郎は仕事でフランスに行き、幼い頃、故郷の日本で食べたスープの味が忘れられないお年寄りに出会う。お年寄りに頼まれて食材探しに出た五郎は、日本の島で荒波に遭って漂流し、韓国の島にたどり着く。毒キノコを食べて倒れたり、特別な韓国料理をご馳走になったりして巨済島まで来る。ここで彼を迎える入国審査職員を演じたのが俳優のユ・ジェミョンだ。一人でご飯を食べるシーンが続くドラマとは違って、干しスケトウダラの酔い覚ましスープをおいしく食べる五郎をちらちら見ながら、ユ・ジェミョンが舌なめずりをしている場面が大きな笑いを誘う。
松重は「韓国を中心に映画を撮りたくて2022年末から韓国映画をたくさん見て俳優を探した」と語った。『声もなく』(2020)でユ・ジェミョンを見て「まさにこの人だ」と膝を打ったという。「映画で言葉が通じなくても一緒に笑いを誘うことができることを表現してみたかったが、よく具現された。ユ・ジェミョンさんとご一緒できたのが今回の映画の最大の成果」だと語った。
ドラマが人気を博した理由の一つは、速く、おいしく、そしてきれいに食べる五郎の姿だ。多くの食べ物をおいしそうに食べながらも、スリムな体系を維持する秘訣について、「ドラマは実際にお店に行って、その店のメニューにあるものを食べるドキュメンタリーに近いため、いつも食べ物が出てくる順に食べながら一発で終わらせるつもりで臨む」とし、「もともと太らない体質だが、ウォーキングが日課になっている。今朝も爽快な海雲台周辺を6キロ歩いた」と答えた。
ドラマの初期、日本と違って韓国では「一人飯(韓国語でホンバブ)」が恥ずかしいことやタブー視されるという話を聞いて驚いたという松重は、「五郎は一人で食べるが、隣の人たちが何を食べるのか気にしたり、料理過程を興味深く見守りながらわくわくする時間を過ごしているので、一人ぼっちで寂しい感じではない」とし、「一人飯は食べることにより多くの自由をもたらすという点で、悪くないと思う。ドラマによって韓国でも一人飯に対する否定的な認識が消えたなら嬉しいことだ」と話した。
松重はこのドラマが韓国、中国、台湾でも話題になっている理由が何かは分からないとしながらも、「東アジアは運命共同体だと思う。産業も文化も手を取り合って一緒に進んでほしい」と語った。さらに「たとえ日韓関係や日中関係が悪化したとしても、ドラマをきっかけに生まれた縁が続けば両国間の関係も良くなるだろう。自分の作品が関係回復に役に立つなら、人生を捧げるだけの価値があると思う」と付け加えた。
正午近くの時間に懇談会を終えた松重は最後に韓国語でこのように語った。「ペゴプシジョ(お腹すきましたよね)?」
2024/10/03 18:54
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