「福島第一原子力発電所(以下、福島第一原発)の廃炉までどんなに早くても26年、その間に、さらに途方もない数の被ばく労働者が出てくるでしょう」
今月8日にハンギョレの取材に応じた「原発関連労働者ユニオン」の池田実書記長(73)は、そう懸念を表明した。この日、彼と会った渋谷の代々木公園では、市民団体「さようなら原発1000万人アクション実行委員会」の主催で「3・11福島原発事故を忘れない」全国集会が開催された。福島第一原発が爆発した2011年の秋にはじまり、今回で13回目を迎えた集会には、この日も3千人あまりの人々が参加し、「日本政府が原発ゼロの約束を破り、原発回帰を宣言したことは認められない」と批判した。
だが、福島第一原発では廃炉作業が行われており、その中では数千人の原発労働者が働いて生計を維持しているのが現実だ。池田書記長も2014年に東京電力の下請け労働者として福島第一原発で働いた。福島第一原発が爆発してから3年後のことだ。彼は、放射性物質による汚染で幽霊村となった「帰還困難区域」の草や土から放射性物質を除去する除染作業に従事していた。翌年には防護服を着て原発内部の事務所などに残されている備品、書類、消火器、保護服などを分別して廃棄する作業についた。
メルトダウンした原子炉の内部状況の把握、核燃料の残骸(デブリ)の除去などの専門分野は、東京電力の正社員が主に担う。福島第一原発の周辺地域で配管の溶接、電気設備の修理、汚染水の排出などをはじめ、ソウル市の2倍の面積を持つ放射性物質に汚染された地域の除染やゴミ処理は、ほぼ池田書記長のような下請け労働者の仕事だった。最盛期には、下請け労働者の数は2万4千人あまりに達した。しかし、労働者の保護対策はお粗末きわまりなかった。池田書記長は「労働者が『線量計』の被ばく数値を退勤前に担当者に口頭で届け出る程度だった」とし、「手袋やマスクは元請け会社、ヘルメットやゴーグルは下請け会社が準備したが、作業服と靴は労働者個人が用意したものであり、仕事が終われば作業服を着たまま家に帰るのが日常だった」と記憶している。福島第一原発を運営する東京電力は今も、「原発関連従事者の(被ばく)線量限度は、関係法令により5年間で100ミリシーベルト、年間で最大50ミリシーベルトと規定されている」と説明している。国際放射線防護委員会(ICRP)が自然放射線および医療放射線を除く人工放射線への一般人の被ばく量を年間1ミリシーベルト以下に抑えるよう勧告していることを考慮すると、労働者の被ばく限度基準はかなり高いが、労働者の被ばく量の測定そのものがずさんだったわけだ。
10日に日本のオンライン求人広告を確認すると、現在、福島第一原発の下請け業者は、年収345万~750万円(3430万~7350万ウォン)で作業員を募集している。彼らは寮の提供、健康保険や厚生年金(韓国の国民年金)、各種社会保険への加入も可能だと宣伝している。事故から14年がたち、賃金だけは多少なりとも上がっている。
下請け業者によって手当てや社会保険、有給休暇の適用などは千差万別だ。池田書記長は「劣悪な環境で日常的に危険にさらされて働くという状況は変わっていない」と批判した。原発関連労働者ユニオンによると、現在も10社あまりの元請け企業と3次、4次まである下請け企業の下で、毎日5千人あまりの労働者が働いている。
原発の下請け労働者にとって、危険は日常だ。彼らの生活を連載のかたちで記録している東京新聞の「ふくしま作業員日誌」で、ある労働者は昨年、「汚染水処理設備で配管の洗浄中、廃液を送るホースが外れて、作業員が超高濃度の廃液をかぶって被ばくした。あれだけ高濃度の廃液を扱うのに汚染防止対策がされてなかったし、かっぱ(防御作業服)も着てないのには驚いた」と記録している。東電側は「徹底した安全措置」を誓っているが、事件や事故は後を絶たない。2023年10月には、汚染水の放射性物質を基準値以下に浄化する設備「多核種除去設備(ALPS)」の配管を洗浄していた2人の労働者が高濃度の汚染水を浴び、入院する事件が起きている。昨年2月には、汚染水浄化装置の弁が誤って開いたままになっており、汚染水が漏れる事件が起きている。
目に見えなかった放射性物質の危険は、時の経過とともに労働者の体を通じてあらわになりつつある。福島第一原発の爆発事故の直後、復旧工事に投入された労働者「あらかぶさん」の例が代表的だ。あらかぶさんは福島第一原発の原子炉4号機で2年あまり耐震工事などに従事。その後、発熱とせきの症状があらわれ、2014年に急性骨髄性白血病と診断された。激しいおう吐、下痢、敗血症。東京電力などを相手取って損害賠償請求訴訟をおこなっているが、9年たっても一審判決さえ出ていない。あらかぶさんと似たような境遇の原発労働者「Tさん」は、福島第一原発関連の仕事に従事した後、悪性リンパ腫と結腸がんにかかった。だが地域の労働基準監督署は、Tさんの被ばく線量は6.4ミリシーベルトで「発がんリスクの基準に達していない」として労災認定さえ拒否している。東京電力の黙認の下、下請け企業などは被ばく量が違法でない水準かどうかだけを管理しており、数値が高まった労働者を「使い捨てにしている」という批判を浴びている理由はここにある。直ちに問題が生じずとも、長期にわたって蓄積された被ばく量が最終的には労働者に致命的な打撃を与えるという分析もある。労働者健康安全機構傘下の「労働安全衛生総合研究所」の研究チームは、福島第一原発の緊急作業にあたった5千人あまりの労働者を10年間にわたって追跡調査したところ、低線量にさらされても糖尿病のリスクが高まる可能性があることを2023年に発表した。被ばく量が10~19ミリシーベルト程度と、原発関連作業の従事者の中では比較的低い線量に被ばくした労働者も、糖尿病の発症リスクが最大で47%上昇していた。
東京電力が今年1月に発表した福島第一原発の5816人の労働者に対するアンケート(回答5498人、94.5%)では、「被ばくについて不安を感じている」とする回答は40.3%(「感じている」12.1%、「多少感じている」28.2%)にのぼった。とりわけ放射性物質が体につく「身体汚染」に対する懸念を示す人が52.2%で最も多く、続いて過剰被ばく(29.1%)、その他(3.9%)、顔面の汚染(3.2%)などだった。
東京電力は昨年11月、原発事故後初めて福島第一原発の原子炉2号機から長さ5ミリ、重さ0.7グラムのデブリを取り出した。推定されるデブリの量は880トンで、取り出したのは12億分の1に過ぎないが、廃炉への意味ある第一歩だとの評価が示されている。日本政府と東京電力はこれを足がかりとして、「核燃料の成分分析→デブリ除去に向けた環境づくり→大規模なデブリ除去→2051年廃炉」という工程表を定めている。廃炉作業が加速するにつれ、原発労働者の抱く恐れも強まっている。廃炉作業が炉心に近づけば近づくほど、原発労働者はより強い放射性物質に近づかざるを得ないからだ。池田書記長は「核燃料のデブリに接近しなければならない作業が増えるほど、原発労働者の被ばく被害は拡大せざるを得ない」とし、「今からでも政府と東電は、下請けを含む労働者に対する正当な補償と健康対策に積極的に取り組むべきだ」と指摘した。
福島第一原発の下請け業者は今も、被ばくの危険性などを巧妙に隠して作業員を募集している。求人広告で、放射性物質にかかわる作業のリスクについての警告を見つけるのは難しい。10日にある業者が出した求人広告には、このように書いてある。
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2025/03/11 07:00
https://japan.hani.co.kr/arti/international/52636.html