ドナルド・トランプ米大統領が打ち上げた関税戦争に世界のすべての国、すべての産業が不安に震えている。 しかし、ほぼ唯一期待されている業種がある。それは韓国の造船業だ。
トランプ大統領は2025年3月4日、ワシントン連邦議会上・下院合同会議演説で「韓国の平均関税は米国より4倍高い」と圧迫しつつも、米国造船業復活の主要パートナーとして韓国を名指しした。トランプ政権発足後、米国が初めて政府間実務協議体を構成した分野も造船だ。
産業通商資源部のアン・ドクグン長官は「米商務省のラトニック長官が造船関連実務協議体を率いていく意志がきわめて強い」と述べた。ジョン・ペロン海軍長官指名者も人事聴聞会で「ハンファがフィラデルフィア造船所を買収した。彼らが造船所を強化し、より良くする方案を探してみる」とし、具体的に韓国造船企業の名前を挙論したりもした。
米軍艦の建造が相次ぎ遅延
トランプ政権の目標が韓国の造船会社を育てるためであるはずはなく、自国の造船業を育成するためであるだろう。しかし、その過程で韓国の造船会社の領域がさらに拡大することは明らかだ。
米国が韓国造船業にラブコールを送る最も重要な理由は「安保」だ。2024年1月、米国海軍はウィスコンシンにあるフィンカンティエリ造船所で建造中の護衛艦の引き渡し日程が遅れているというニュースに接し、軍艦建造プログラム全体に対して45日間の検討を進めた。結果は予想以上に惨憺たるものだった。9つのプログラムで最長3年も遅延が発生していた。
米国の戦略産業だった造船業は、一時414カ所の造船所が運営されていたが、現在は政府の発注のみに依存して衰退した。米国で海軍艦艇を建造できる造船所はゼネラル・ダイナミックス、ハンティントン・インガルス、フィンカンティエリの3カ所に過ぎない。
ところが、3つの造船所のすべてで日程が遅れており、潜水艦、護衛艦、航空母艦など船種にかかわりなく遅れていた。遅延の理由としては慢性的な人手不足が挙げられた。造船業は人手がたくさんかかる。地域によってはパンデミックを経験し人手が半分に減ったケースもあった。また、造船業が衰退し協力会社なども倒産し、供給網が不足して部品が適時に供給されず遅延するケースも生じた。2024年初め、米国海軍があたふたと韓国HD現代重工業、ハンファオーシャンを訪問した理由だ。
米国がこうした問題を初めて認知したわけではない。2018年、海軍所属の造船所4カ所の革新のために「造船所インフラ最適化計画」を立て、今後20年間で210億ドルを投資することにした。2022年には民間造船所支援のために19州の24造船所に1960万ドルの補助金を支給した。だが、人件費が高い米国で労働集約的な造船業を復活させるには限界があった。
自国内で軍艦を作れなければ、友好国である韓国や日本の支援を受けることもできる。しかし、これもままならない。米国は1920年、米国で建造された船舶のみが沿岸運送を遂行するようにしたジョーンズ法、1960年代には米国軍艦を自国の造船所だけで作るように「バーンズ-トリフソン法」を作り、自国の造船産業を保護している。100年前、60年前に作られた法のため、心強い同盟国があるにもかかわらず、海軍力補強のための支援を受けることができないのだ。
その法律を改正しようとする試みは何度かあった。しかし、造船業は地域の雇用に影響を及ぼす業種だ。国外船舶を購入することで需要を代替できれば、競争力のない米国の造船業は崩壊する恐れがある。規模は小さくとも造船会社がある地域住民には非常に重要な問題だ。結局、米国造船会社の仕事が減りかねないという地域の世論に阻まれ、法改正はその都度失敗した。現在軍艦を建造する力量がないのに、韓国の造船会社に艦艇の維持・補修(MRO)程度だけを任せるほかはなかった理由だ。
その間に中国の造船業は急速に拡大した。米国防総省の「中国軍事力評価報告書」によると、中国海軍は世界最大規模の艦艇を保有しており、その後も格差は次第に拡大した。米国防総省によると、国別艦艇数は2000年までは米国が318隻、中国が110隻で米国が圧倒的にリードしていた。2024年基準で中国の保有艦艇は234隻、米国は219隻で逆転した。2030年には中国460隻、米国260隻で200隻ほどの格差が予想される。
中国海軍の米軍追撃
もちろん、強大な海軍力の象徴である航空母艦戦戦団、排水量の大きい駆逐艦保有量など、質的な面では米国がリードしている。しかし、中国の年間船舶生産能力は2325万GT(総トン数)で、米国の232倍にもなる。このまま行けば、米国の海軍力が中国に押されることは決まった未来だ。
米国と中国の葛藤が固着化する状況で、海軍力の弱体化は致命的弱点になっている。米議会でも、再び同盟国に軍艦建造を任せることができるようにする法改正が推進されている。共和党のカーティス上院議員らは同盟国に海軍軍艦の建造を任せられるようにする「海軍準備態勢保障法」を発議した。
法案には「米国が相互防衛条約を締結した国家やNATO(北大西洋条約機構)加盟国に海軍艦艇の建造を任せることができる」と明示されている。また「米国軍艦を製造する外国の造船会社は中国からの投資を受けてはならない」という条件もある。欧州に大型造船会社がほとんどない点を勘案すれば、軍艦を製造できる外国の造船会社は韓国と日本ぐらいだ。
ばら色の未来だけが待っているわけではない。トランプ大統領が造船業復活のために推進する政策は非常に過激だ。韓国造船業の立場で最も良いシナリオは、付加価値の高い米国軍艦を韓国国内で建造することだ。しかし、米国が望むのは米国内の造船業を復活させることだ。ところが、米国はすでに造船業が衰退し、人材も協力会社もない。トランプ大統領は、中国船舶のコストを高め、経済性を合わせるやり方で、米国内の生産を促進しようとしている。米国で作る洗濯機が高ければ、外国で作る洗濯機に関税をかけて競争するという発想と似ている。
ひとまず、中国の船舶が米国に入港すれば、中国の船会社所属の場合には100万ドル、中国で製作された船舶の場合には150万ドルの手数料を賦課する規定を推進している。第3国船籍といっても、中国で建造された船舶なら手数料の賦課対象だ。中国の造船所に新規注文を出しただけでも、船会社は100万ドルの追加手数料を払わなければならない。大型コンテナ船は、米国に入港する際に港1カ所で全ての貨物を降ろさず、複数の港を通る。港ごとに手数料を課すという措置もある。また、米国の港湾で中国産クレーンを使用するのも手数料賦課対象だ。
米国のメッセージは、米国の造船業を復活させることに韓国が協力しろということであり、韓国の造船会社に仕事を与えるという意味ではない。米国市場をどう攻略できるかは非常に挑戦的な課題だ。ハンファグループは2024年、米フィラデルフィアにあるフィリ造船所を買収した。買収金額は約1億ドルで1400億ウォン余りだ。
フィリ造船所は第2次世界大戦当時、約4万人が勤めていた米国の主要造船会社の一つだった。しかし、今は造船所の一角をカフェや衣類小売店として運営するほどに衰退している。韓国の造船会社(ハンファ・オーシャン)がフィリ造船所を買収するというので、現地では別の企みがあるのではないかと疑われたりもした。
ハンファ・オーシャンは老朽化したドックを改善するため、約1億ドルを投資する計画だ。買収金額だけドック改善投資が必要なのだ。人件費も高く、造船機材も遠くメキシコから空輸しなければならない。韓国に比べて建造費用が3倍にもなる。ハンファ・オーシャンは、慶尚南道巨済造船所でブロックを作り米国に輸出する案も検討している。
韓国と米国が「ウィンウィン」になるためには
ところで、米国政府が造船ブロックや機材に関税をかけるとしたら?反移民政策を推進して人件費が今よりさらに上がるとしたら?悩まなければならない部分が一つや二つではない。もしかすると、今の韓国造船業は、全く異なるグローバルパラダイム転換の真っ只中にある。
グローバル造船業の王座は欧州、米国、日本を経て韓国に来た。韓国の「造船ビッグ3」がグローバル造船ビッグ3だった。そうするうちに中国の造船業が急激に成長し、建造難易度の低いバルク船、タンカーなどを完全に掌握し、今は超大型コンテナ船、液化天然ガス(LNG)船も脅かしている。
米国に必要な造船業の力量は、単に軍艦にとどまるものではない。大規模な商船市場はもちろん、トランプ政権が重点的に推進しているLNGプロジェクトも造船会社の領域だ。どうすれば新たに再編される国際秩序の中で、韓国と米国がウィンウィンになる結果を作り出せるか、非常に重要な選択の瞬間だ。
2025/04/04 14:39
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