◇最初のプラチナ、そしてゆがんだ時計
今回のエキシビションにはカルティエの1970年代以降の現代作品と20世紀初期の作品300点が公開されました。時間という大きな物語の構造の下、カルティエは積み重ねてきたマイルストーンと言えるような作品を選別しながらも3つのテーマで分けたといいます。「素材の革新」「フォルムの革新」そして「文化的革新」を見せる作品群です。
最初の章「色と素材のトランスフォーメーション」では斬新なジュエリーデザインのために大胆に選びぬかれた素材と色彩のジュエリーが登場します。最も代表的なものが「プラチナ」です。20世紀初頭、メゾンはプラチナを初めてそのレパートリーに加え、今では普遍的な素材となりました。色彩豊かなの有色ジュエリーもメゾンならではの探険的精神を雄弁に物語っています。業界ではあまり使われなかったブルーやグリーンをミックスした、いわゆる「ピーコック(孔雀)」パターンを誕生させたのもカルティエです。
第2章の見どころはタイトルそのまま「フォルムとデザイン」です。メゾンが長い時間かけて探求してきた最も美しいフォルムと比率、バランス感を見せる作品が厳選されています。ジュエリーは美術品とは違って身体に身につけるものです。体の曲線ラインにぴったりと寄り添うように精巧に製作されたジュエリーの流麗なフォルムを鑑賞することができます。背景になる粗く素朴な大谷石との対比で一層引き立って見えます。
建築的であり、超現実的なデザイン、ジュエリーとは関係のないインダストリアルの世界から出発したデザインなど、各作品で輝くクリエイティビティも見どころです。中でもゆがんだ時計「クラッシュウォッチ」が際立っています。ロンドンのある顧客が交通事故で踏み潰された時計を修理するために持ち込んだ時計からインスピレーションを得たシュールレアリスム的なデザインと言えるでしょう。ドライバーからインスピレーションを得て専用スクリュードライバーでブレスレットのビスを留めて緩める方式で着用する「LOVE」コレクションや、インダストリアル素材の釘からデザインのアイデアを得た「ジュスト アン クル ブレスレット」は、日常的でもあり芸術的でもあります。
◇巨大な帆船の中のジュエリー、時間への航海
文化的革新を見せる3つ目の章「ユニヴァーサルな好奇心」ではアジアやアフリカ、古代エジプトを行き来するカルティエデザインの原動力が紹介されています。木でできた巨大な帆船をひっくり返したような会場デザインも見どころです。まるで最後の方舟に大切に保管しておいたかのようなピースに何度も視線が引き止められます。
ここではさまざまな文化圏からインスピレーションを受けた華やかで多彩なジュエリーを鑑賞することができます。漆塗りのような日本の工芸品に着眼した華やかなヴァニティケース、韓国の伝統装飾品であるノリゲを連想させるようなブレスレットなどです。この他に蘭や花などの植物からインスピレーションを受けた美しいジュエリー、すぐにでも動き出しそうな躍動感のあるヘビ・トラ・ヒョウがモチーフのジュエリーはそれ自体からも生命力があふれ出ています。
◇宝物はジュエリーだけではない
今回のエキシビションで注目したいのは、豪奢なジュエリーだけではありません。各章の間に予告でもするかのようにテーマを凝縮した「トレジャーピース」もまたぜひじっくりと鑑賞したいポイントです。最初のプロローグの逆行する時計から、やはり杉本氏が自ら製作した「ガラスの塔」、キューレーションした「朝鮮時代螺鈿亀甲算数文櫛箱」などがそれです。最終章の前にはツタの彫刻品と朝鮮時代「白磁多角瓶」が置かれました。
何よりもこのエキシビションの至るところに繰り広げられた壮大な時間と空間のメタファーに目を向けるようお勧めしたいと思います。縦の糸と横の糸が精巧に交差する「羅」がやさしく揺れる空間が、今ここに、たった一度の刹那を象徴しているようです。
「玉磨かざれば光なし」という言葉があります。これまでカルティエのジュエリーを鑑賞できるエキシビションの機会は確かにありました。しかし、今こそ「時の結晶」展がもたらす特別さは、すなわちこの珍貴な宝石ひとつひとつを磨いたその物語そのものにあるのではないでしょうか。薄暗い照明の展示館に入ると現れる「逆行時計」が導くまま、しばらく時間旅行をするように時間に逆らい、地球の時間が作りあげた美しい産物を心ゆくまで探険してみてください。
2024/05/09 16:08
https://japanese.joins.com/JArticle/318464