日本の医学部増員、医師の集団行動も政府の一方的な発表もなし

投稿者: | 2024年5月10日

 「日本は医学部の定員を拡大したにもかかわらず、医師社会が医師不足に共感し、対立なく実行した」(保健福祉部)

 「日本は医師会と緊密に協議しながら医師人材拡充政策を樹立している」(大韓医師協会)

 医学部の定員拡大をめぐる医政の対立が3カ月ほど続く中、日本の医学部増員という同じ事例をめぐっても、双方の見解の相違は明確だ。互いに強調したい部分ばかりを強調しているからだ。

 少子高齢化、地域医療と必須医療の危機などの韓国と同様の課題を抱える日本が、医師供給問題の議論を開始したのは40年前。議論を根拠に社会的変化に合わせて医学部の定員を減らしたり増やしたりしてきた。韓国社会全体を混乱に陥れた医学部の増員問題を、日本ではどのように大きな対立なく解決してきたのだろうか。

 日本の医学部の定員は、1970年代初めから最近までに大きく4回の変化があった。日本政府は1973年、少なくとも「人口10万人当たり150人」の医師が必要だとして、そのために医学部のない地方に医学部を作るというやり方で定員拡大に乗り出した。1973年に6200人だった医学部定員は、1980年代初めには8280人となり2080人増加する。定員拡大を続けていた日本政府は1982年、今度は「医師過剰」の恐れがあるとして医学部の定員を徐々に縮小することを決め、2003~2007年には7625人にまで減る。

 2000年代初めに再び推進された日本の医学部定員拡大は、韓国にとって示唆するところが大きい。当時、日本では今の韓国と同様に、地方医療と必須医療の医師不足が深刻な社会的争点となっていた。日本政府はこれを解決するため、地方を中心とする医学部の定員拡大を推進した。2007年に7625人だった定員は2009年には8486人、2013年には9041人となり、2017年の9420人でピークに達する。教育条件の整備などが必要だったことから、10年間かけて漸進的に1795人増やしたのだ。一度に「2千人」増員することを強行した韓国と比べると、かなり速度を調節した格好だ。2018年以降は、再び医学部定員の縮小の必要性が提起されたことを受け、ピークの「9420人」を超えない範囲で現在は小幅に調整されている。医学部の定員増加で日本の医師数も2010年の29万5千人から2022年には34万3千人に増えている。

 日本では、医学部の定員調整をめぐる政府と医師との見解の相違はあったものの、福祉部の言う通り集団行動に及ぶという極限の反発はなかった。医療界と緊密に議論したことが主に作用したのだ。

 日本政府は1983年の「将来の医師需給に関する検討委員会」を皮切りに、「医師需給の見直し等に関する検討委員会」(1993年)、「医師の需給に関する検討会」(1997年)など、名称は少しずつ異なるが、医師の需給について議論する特別な専門家組織を設置、運営してきた。2015年からは、職種ごとに状況が異なるとして、厚生労働省の検討会の傘下に医師、看護師、理学療法士・作業療法士の需給分科会をそれぞれ設けた。日本は医師需給問題をめぐって40年間も「社会的対話」を続けてきたわけだ。

 「医師需給分科会」は医療界を中心として構成された。2022年1月の医師需給分科会の資料を見ると、22人の委員のうち15人が医療界の人士で、68%を占める。その他、地方自治体職員、経済学者、医療コンサルティング会社社長、ジャーナリスト、福祉施設関係者、行政学者、市民団体代表がそれぞれ1人ずつ参加している。検討会は社会的責任を強調しつつ、議論の根拠となる資料だけでなく、会議録をすべてウェブサイトで公開するなど、透明に運営されている。

 これに対して尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は、一部の専門家の報告書を根拠として将来の医師数を推定している。医学部の増員について医療懸案協議体、保健医療政策審議委員会、定員配分審査委員会を運営したが、会議録すら公開していない。医学部の定員をめぐる議論も政府主導で推進してきた。

 日本において社会的対立を起こすことなく医学部の定員拡大ができたのは、医政が「日本の地域医療と必須医療を守ろう」ということで対話してきたからだ。医療界を中心に構成された「医師の需給に関する検討会」は2005年2月から翌年の2006年7月までに計15回の会議を行い、最終報告書を完成させる。同検討会は、経済協力開発機構(OECD)などの国際基準、日本の医療現場の具体的な需要と供給を示す資料にもとづき、2022年以降は「医師過剰」が予想されると推計した。しかし、地域や診療科の違いによる医師の不均衡は早急に解決すべきだとして、地方を中心とした定員の拡大などを提言した。将来、医師数が全体的に不足するわけではないものの、地域医療と必須医療の危機を解消するために「食い扶持の確保」ではなく問題解決に積極的に取り組んだのだ。医学部の定員拡大という言葉を聞いただけで、まずは拒否感を示す韓国の医療界とは、まったく異なる雰囲気だ。

 厚生労働省は検討会報告書を踏まえ、関係省庁での会議や地方自治体による議論を経て、「新医師確保総合対策」(2006年)、「緊急医師確保対策」(2007年)、「経済財政改革の基本方針」(2008年)を相次いで発表し、定員を拡大していった。地域医師の拡充のために一部の大学で「地域枠」が2008年に正式に導入される。定員と運用方式は地域によって異なるが、医学部に在学する6年間に奨学金を支給し、卒業後は9年間、その地域の医療機関に勤務させる制度だ。地域枠などの地域医師養成政策で入学した学生の数は、2007年の173人から2022年には1736人にまで増えている。この期間に医学部の定員は1749人増加しているが、地域枠などが1563人(89%)で大半を占めている。医学部が設置されている全国の80大学中、71大学が地域枠を設けている。奨学金があるため、経済的には恵まれていないものの医学部への進学を希望している学生たちに好評だ。

 もちろん課題もある。勤務期間が満たせなければ奨学金を返還しなければならないが、「離脱者」が生じ続けている。厚生労働省が2019~2020年に実施した調査によれば、9707人の地域枠出身者中、450人(4.6%)が他地域に移っている。読売新聞は「都市より設備が劣る地方の病院では専門性を高めるのが難しかったり、結婚や出産などで環境が変わったりしたことが背景にあるとみられる」と伝えた。

 地域枠は地域の医師不足の解消に一定の貢献をしているとの評価はあるものの、日本における医療の不均衡は依然として深刻だ。日本経済新聞は「外科、救急科、産婦人科などは医師の確保に困難をきたしており、東北地方などは医師不足が深刻だ」と述べつつ、「これらの診療科や地域医療は今いる医師の長時間労働で支えられている」との懸念を示している。

 地方医療と必須医療を守るために医学部の増員を拡大し続けることも容易ではない。「医師需給分科会」は2020年8月、現在の医学部定員を維持すれば2029年ごろには「医師が過剰」になると予想する。日本では「医療費が増える可能性があるから定員は縮小すべきだ」、「医療の地域不均衡は相変わらずなのだから、定員は維持、または増やすべきだ」など、様々な意見がある。医師不足で苦しむ青森、岩手など12県は、2020年に「地域医療を担う医師の確保を目指す知事の会」まで作って共同の取り組みをおこなっている。

 厚生労働省は今年1月、医療界の人士を中心とする「医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」を新たに設置した。医学部の定員を減らしつつも、地方医療と必須医療を守る方策を探ることが目的だ。先月の第4回会議の内容を見ると、医師の多い地域の医学部定員を減らし、医師の少ない地域では増やすことを主に検討している。

 財務省は先月、さらに一歩踏み込んで、医療機関が不足している地域の診療報酬を引き上げ、過剰な都市では下げるという政策も提案している。これに対して日本医師会は「(地域による報酬差別は)極めて筋の悪い提案で断じて受け入れられない」と反発している。しかし、世論はより強い対策を求めている。日本経済新聞は最近の社説で「(医師の)総数が増えているのに医師不足の問題がなくならないのは、医師の配置が偏っていることに原因がある」、「医師の専門や勤務地の選択にある程度の制限をかける検討も始めるべきではないか」と述べている。

2024/05/09 06:00
https://japan.hani.co.kr/arti/politics/49971.html

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