まるで廃虚になった神殿のように、展示場の至るところに無骨な石が配置されている。2000万年前、日本近海の海底で火山が爆発した後、マグマが固まってできた大谷石だ。時空を超えてソウル東大門(トンデムン)デザインプラザ(DDP)に移された石材の合間に豪華な宝石のティアラ(一種の王冠)とネックレスが輝きを放っている。深い地中から採掘した原石からこのような繊細な美しさを放つまで「人間と時間の戦い」を静寂の中で雄弁に語っているようだ。
ザハ・ハディド(1950~2016)が設計したDDP開館10周年を迎えて1日に開幕した「カルティエ、時の結晶」の中の風景だ。今回の展示はフランスの高級ブランド「カルティエ」自身のコレクションとあわせて個人所蔵品300点余りをまるで美術作品のように精巧なテーマで紹介している。直接的には2019年東京国立新美術館で開かれた同一テーマの展示をソウルに持ってきた。「宝石そのものの価値や製作背景ではなく、世界各地の文化と自然物からインスピレーションを受けたデザインを中心に照明を当てた」(京都芸術大学の本橋弥生教授)というのが特徴だ。
特にこれを「時間の力」というキーワードを通じて感じることができるように要素を配置した。例えば陳列台のトルソー(首元だけの彫刻)は樹齢が1000年以上の古木を長い時間乾かして加工した後、仏像彫刻専門の職人が繊細に仕上げた。ここに飾られているネックレスは1900年代初期に製作され、使われた宝石は数億年前の地球活動から始まった。人間が時計で測る12時間単位ではとても及ばないほどの歳月だ。
「宝石、石の持つ力と魅力に気が付いた時、人は意識を獲得した。動物たちはどんなに美しい石にも興味を示さない。人だけが石に、それも何億年もかけて結晶化された石に美を見出し、美は価値となった」。
日本の巨匠写真作家・アーティストである杉本博司氏(76)の言葉だ。杉本氏が建築家の榊田倫之氏(48)とともに設立した建築会社「新素材研究所」が2019年の東京展に続き今回の空間もデザインを担当した。榊田氏は「2018年春にパリのカルティエ工房で会った職人が宝石に臨む姿が記憶に鮮明に残っている」としながら「自然の美しさには時が刻まれている。これを伝えようと石や木など自然素材を多用した」と明らかにした。
展示は1908年に製作された高さ3.5メートルの大型の時計とともに始まる。時針と分針が本来とは反対方向に動くように杉本が改造した。「古い素材こそが一番新しい」という新素材研究所のモットーとつながる一方、最新技術も過去の遺産に基づくというメッセージを伝えている。韓国伝統織物「羅」を空間を分ける装置として使用しているのも目につく。三国時代から使われたが命脈が切れてしまった「羅」は、韓国伝統美を保存する活動をしている「アルムジギ」の姉妹機関「オンジウム」の研究によって最近復元された。この他にも9世紀に創建された日本の寺の仏画を屏風のモチーフとして活用するなど至るところで伝統とのつながりを強調している。
展示品は高価な装身具を越えて「装飾芸術の結晶体」を追求するカルティエの歴史を集約している。アールデコが一世を風靡していた1920~30年代に誕生した「Tutti Frutti」(「すべてのフルーツ」を意味するイタリア語)はインドの伝統ジュエリーからインスピレーションを受けて有色宝石を木の実・木の葉・花のような模様に一つひとつ丁寧に彫刻して結合させた。プラチナなど新素材を初めて組み合わせたり、当代の建築・美術トレンドを反映したデザインも鑑賞に値する。くぎやボルトのような工業用品に着眼した製品(「LOVEブレスレット」等)は大衆化にも成功した。
有名人にまつわる物語が宿った希少なジュエリーも目を引く。英国エドワード8世が王位を捨てて選んだ「世紀の結婚」当時のシンプソン夫人の愛蔵品が多数公開される。モナコの王妃となった映画女優グレース・ケリーが結婚式の時にかぶったティアラも展示されている。それぞれ依頼を受けて製作・納品されたものを後日カルティエが競売などを通して買い戻したものだ。1970年代からのこのような水面下の努力のおかげで1847年フランス王室納品宝石商から出発して以来、170年余りのブランドの歴史を約3500点のコレクションに込めることができるようになった。
カルティエ展は1989年パリのプティ・パレを皮切りにニューヨークのメトロポリタン美術館、ルーブル・アブダビなど世界有数の美術館を経てDDP展が41回目となる。最近、ディオールやブルガリなど有数のブランドが自社製品の芸術的価値に光を当てるトレンドと融合しつつも格調ある装飾工芸展に引き上げた。1日の開幕以来、チケットが3万枚販売されるなど観覧客の反応も上々だ。主宰側は「新韓銀行などのさまざまな企業でVIPパッケージ購入も相次いでいる」と説明した。中央日報とソウルデザイン財団が共同主催する「カルティエ、時の結晶」(Cartier, Crystallization of Time)は6月30日までとなっている。
2024/05/13 16:09
https://japanese.joins.com/JArticle/318580