「韓国には『ヘル朝鮮(Hell Chosun、地獄のように生きづらく希望のない韓国)』という言葉があります。韓国の富の象徴であるソウル江南の若者たちが、なぜ『地獄に住んでいる』と言うのかお見せしましょう」
今月7日午前、ソウルの江南駅近くにあるモーテルの前で、金髪の外国人観光客12人が輪になっていた。マイクを持ったガイドのキムさん(30)が「韓国では住宅価格が高すぎて家を買うことも借りることもできません。そのため、若者たちは恋人と会うときにはモーテルを利用します」と説明すると、観光客たちは「おお」「ワオ」と驚いた。ガイドのキムさんは、旅行専門サイトに「韓国の若年層と社会の現実を垣間見る江南探訪」と書き込み、観光客を集めた。オーストラリアからやって来たジョン・バティスティッチさん(57)は「韓国の若者たちはとにかくたくましく見えていたけれど、説明を聞いたらカンガルー族(成人しても親と同居したり経済的援助を受けていたりする人)のようだ」「活気あふれる韓国社会の暗い一面を知り、ほろ苦い気持ちだ」と話した。
「私教育(塾や習い事など)1番地」と言われるほどの過剰な教育熱、高騰が続き天井知らずの住宅価格、次から次へとオープンする美容形成外科や美容皮膚科など、韓国社会の負の部分が集約されたソウル・江南区が、「ダークツーリズム」の対象となっている。ダークツーリズムとは本来、歴史的な悲劇や災害の現場、犯罪の現場などを訪れる観光のことだ。一部の外国人観光客は「これまでは韓国ドラマやK-POPなどの話ばかり聞いていたが、韓国社会の裏側の話も聞くことができて興味深い」と話した。しかし、一部の旅行商品は韓国社会を過度に批判的な目で見ており、これに対する批判も少なくない。
この日の「江南ツアー」は、江南駅、大峙洞の学習塾街、新沙駅周辺の美容形成外科ストリートを地下鉄や徒歩で移動するものだった。時間は3時間で、ガイドの説明が付いて4万5000ウォン(約4800円)だ。大峙洞にある有名な入試予備校の前で、「全てを懸ける」と書かれた垂れ幕を記者が英語に翻訳すると、観光客たちは「どうして勉強に命を懸けられるんだ」と口々に尋ねてきた。米国カリフォルニアから11歳の娘と共に韓国を訪れたセラ・モリスさん(44)は「夜遅くまで机に座って勉強するのは博士たちぐらいだ」「韓国の10代の学生たちがかわいそうに思える」と話した。ソウル地下鉄3号線の新沙駅を出て、延々と立ち並ぶ美容皮膚科や形成外科を目にした観光客たちは、一斉にスマートフォンを取り出して写真を撮った。スコットランドからやって来たモイ・メケイさん(59)は「韓国の自殺率の高さと出生率の低さの原因が知りたくてツアーに参加した」「韓国人が受けている重圧を体感することができた」と話した。
これまで韓国のダークツーリズムといえば、主に日帝強占期を象徴する西大門刑務所、乙巳勒約(いっしろくやく、1905年の第2次韓日協約)が締結された徳寿宮の重明殿、6・25戦争(韓国戦争)の現場となった非武装地帯(DMZ)などを訪れるのがほとんどだった。しかし最近では、わずか数カ月前に起きた事件を観光商品化する傾向が見られる。昨年12月3日の非常戒厳の直後には、ソウルの鍾路・光化門一帯で行われていた大規模デモを実際に体験するという旅行商品が登場した。高齢者の売春が行われている鍾路区のタプコル公園などを紹介するツアーもある。漢陽大観光学部のチョン・ランス教授は「韓国文化に対する関心が高まれば高まるほど、その実情や多角的な話が聞けるダークツーリズムの観光商品が人気を集めるのは自然なことだ。オーバーな表現によってゆがんだ情報が伝わる可能性もあるため、旅行商品の内容はきちんと精査されるべき」と指摘した。
キム・ドギュン記者、カン・ジウン記者
2025/07/17 07:00
https://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2025/07/14/2025071480006.html