2025年6月20日に公開されたネットフリックスのオリジナルアニメーション「K-POPガールズ!デーモン・ハンターズ」(以下「ケデハン」)が色々と話題になっている。公開1週目に920万ビューで2位に上がったが、2週目には2420万ビューを突破し、93カ国でトップ10、31カ国で1位を占めた。
現職のK-POPプロデューサーが参加したオリジナル・サウンドトラック(OST)は、各種音源ストリーミング(リアルタイム再生)チャートはもちろん、ビルボードチャートまでランクインし、ソーシャルメディアでは作品の中の世界観を分析し、キャラクターのファッションやダンスを真似するチャレンジが流行のように広がる姿が印象的だった。
30年以上韓流の誕生と成長を見守ってきたコンテンツ製作者として、「ケデハン」のこのような成功は非常に喜ばしいことだ。この作品が単純なアニメーション一つの作品ではなく、グローバル資本と技術、人材、そしてグローバルプラットフォームが韓流と出会い、新しい価値を創出するという点でさらにそうだ。
■文化の流れ理論から見た「ケデハン」
インド出身の世界的な文化人類学者のアルジュン・アパデゥライは自身の「文化の流れ理論」で現代世界をこれ以上「中心と辺境」という古い二分法で把握することはできないと語った。1990年に発表された30年前の理論が最近注目される理由は、最近の韓流で現れる脱国家化現象を説明できるからだ。
最近韓流で現れる脱国家化現象は韓流がもはや「メイド・イン・コリア」で説明される文化ではないことを意味する。今回の「ケデハン」もやはり日本のソニー・ピクチャーズ・アニメーションが製作し、韓国系カナダ人のマギー・カンが監督を引き受けた。イ・ビョンホンやアン・ヒョソプなど韓国俳優たちが英語吹き替えに参加し、TWICEのメンバーたちがOSTに参加するなど、国境を越えたコラボレーションの産物だ。これは典型的な「脱国家化韓流」の現象だ。
アパデゥライは現代世界で文化の流れをエスノ(Ethno)、テクノ(Techno)、ファイナンス(Finance)、メディア(Media)、イデオ(Ideo)という5つの「スケープ(光景)」で説明したが、「ケデハン」はこのすべての光景が複合的に作用する姿がよく現れた作品と言える。
「ケデハン」の脱国家化現象を最も明確に示すのは「エスノ・スケープ」(Ethnoscapes)だ。これは国境を越える人々の移動と定着を意味する。マギー・カン監督はこの作品を「韓国文化に対するラブレター」だと表現した。彼女は幼いころ移民し、ずっと外国で育ったが、韓国的なルーツを失わず、むしろこれをグローバルな言語に翻訳する文化的仲介者の役割を果たした。これは、韓国で生まれ育ったクリエイターたちが主導した従来の韓流とは根本的に異なる様相だ。また、イ・ビョンホン、アン・ヒョソプなど韓国の俳優たちが英語吹き替えに参加したことも注目に値する。
この現象は、韓流クリエイターがもはや韓国という地理的境界に限らず、同時に韓国出身のクリエイターも韓国語という言語的境界を越えていることを示している。
K-POP産業全般を見ても、この傾向ははっきりしている。現在、主要K-POPグループのプロデューサーの相当数は米国やヨーロッパ、日本などで活動した経験があるか、海外出身だ。また、K-POPアイドルの中にも外国出身のメンバーが増えている。彼らは韓国システムの中で訓練を受けるが、同時に自分の文化的背景をK-POPに溶け込ませ、新しいハイブリッド(混合型)の文化を作り出している。
■プラットフォームが作った新たな流通環境
「ケデハン」の脱国家化現象においてネットフリックスが果たした役割は決定的だ。ネットフリックスは単なる流通プラットフォームを越えて「テクノ・スケープ」(Technoscapes)の中核インフラとなっている。
かつて、韓流コンテンツが海外に進出するためには、各国の放送局や配給会社と個別に契約を結ばなければならなかった。この過程で韓国の製作会社は交渉力が弱くなり、結果的に収益のかなりの部分を中間流通企業らに渡さざるを得なかった。
しかし、ネットフリックスのようなグローバルオンライン動画サービス(OTT)プラットフォームの登場で、この構造が完全に変わった。韓国で製作されたコンテンツが全世界190カ国余りに同時公開され、30以上の言語で字幕と吹き替えが提供される。
さらに重要なのは、このような技術的インフラが創作過程にも影響を及ぼすという点だ。 ネットフリックスは全世界の視聴データを分析し、どんなジャンルとストーリーがどの地域で人気を集めるか予測できる。「ケデハン」もこのようなデータ分析の結果だ。
2023年4月、ネットフリックスが発表した今後4年間25億ドル(約3690億円)規模のKコンテンツ投資計画もこのような脈絡で理解できる。これは単に韓国コンテンツへの投資ではなく、韓国をハブとするグローバルコンテンツ生産ネットワークへの投資だ。韓国の創作インフラとノウハウを活用し、世界市場を狙ったコンテンツを作るという戦略だ。
「ケデホン」の脱国家化は資本の流れからも確認できる。この作品の製作費はソニーピクチャーズアニメーションが投資し、流通はネットフリックスが担当した。収益は世界中で発生する。伝統的な国家単位の文化産業の枠組みでは説明しにくい複雑な資本構造だ。
「ケデホン」のストーリーテリングで現れる脱国家化現象も興味深い。「メディア・スケープ」(Mediascapes)は全世界に流通するイメージと物語りの流れを意味するが、「ケデハン」はこの流れがどのように新しい物語りを作り出すかを示している。
作品の基本設定である「悪魔狩り」は西欧のキリスト教文化に由来した概念だ。「ケデハン」ではこれを韓国の巫俗信仰と結び付けた。太初のハンターが巫女であり、グッに動員される踊りと歌で悪霊を退けるという設定は、韓国固有の文化的要素だ。これが現代になってK-POPアイドルの歌とダンスに進化したというストーリーは非常に独創的だ。
このような設定は単なる文化的混合を飛び越える。西欧の善悪二分法的世界観と韓国の循環的・和解的世界観が衝突し融合し、全く新しい価値観を提示する。悪魔たちも単純に除去すべき存在ではなく、理解して疎通すべき対象として描かれるのがその例だ。
「ケデホン」が全世界に伝播する価値観と理念も脱国家的性格を帯びている。「イデオ・スケープ」(Ideoscapes)の観点から見ると、この作品が提示する価値観は特定国家や文化圏に限定されない普遍的メッセージを含んでいる。
作品の主なメッセージは「互いに異なることを認め、調和すること」だ。主人公たちは悪魔と戦うが、究極的には彼らを理解し共存する方法を模索する。これは現在、世界が直面している文化的対立と差別問題に対する解答を提示するメッセージといえる。
また「ケデハン」は「個人のアイデンティティと集団の調和」というテーマも取り上げている。 K-POPアイドルとして完璧な姿を見せなければならないプレッシャーと真の自我の間の葛藤、そしてこれを克服する過程は現代社会の多くの若者が共感できる内容だ。
興味深いのは、このような価値観が特定の宗教やイデオロギーとつながっていないという点だ。「ケデハン」はキリスト教的悪魔観を借用しながらも、仏教的慈悲心と儒教的調和思想、巫俗的包容性を全て含んでいる。これは脱宗教的、脱イデオロギー的価値観の提示とみることができる。
■「ニュータイプ」の韓流の時代
「ケデホン」の成功は韓流が新たな段階に入ったことを知らせるシグナルだ。もはや韓流は、韓国から始まって世界に輸出される一方向的な流れではなく、全地球的ネットワークの中で循環し、再生産される多方向的な流れとなった。このような変化は韓国文化産業にこれまでにないチャンスを与えている。
これと同時に新たな挑戦もある。脱国家化した韓流で韓国の位置をどう確保できるか。グローバルプラットフォームと資本の力が大きくなる状況で、韓国クリエイターの主導権をどのように保障できるか。これらの質問の答えを探していく過程が、今後の韓流の重要な課題になるだろう。脱国家化した韓流の収益が韓国にどれだけ還元されるのかも疑問だ。
30年以上韓流の成長を見守ってきた者として、「ケデハン」の成功は感激すべきことだが、同時に新しい悩みを抱かせる事件でもある。韓流は今や本当に「韓国の流れ」なのか、それとも韓国を経て流れる「グローバルの流れ」なのか?
おそらく答えは両方だろう。脱国家化時代の韓流は、韓国的であると同時にグローバルな、固有であると同時に普遍的な文化になりつつある。「ケデハン」が見せてくれたように、国境を飛び越えるクリエイターとプラットフォーム、そして国境のないファンダムが作り出す新しい文化環境の中で韓流は進化し続けるだろう。
重要なのはこの変化の流れをきちんと読み取り、韓国がその中でどのような役割を果たすのか、戦略的に考えることだ。「ケデハン」の成功はその可能性を示した。これからはその可能性を現実にしていくのが我々の課題だ。
2025/08/10 16:47
https://japan.hani.co.kr/arti/culture/53928.html