米国の覇権が韓国に依存するようになった【コラム】

投稿者: | 2025年8月15日

 米海軍の代表的な攻撃型原子力潜水艦であるロサンゼルス級「USSヘレナ」は、1986年の就役直後から2年ごとに6カ月間受けていた修理と点検が、2010年に入ると長引くようになった。2017年以降は造船所に留め置かれ、2022年に海軍に引き渡されたが、追加修理が必要となった。遅延する修理作業中の昨年5月には、海軍の兵士1人が死亡した。結局、7月にヘレナは退役した。

 米国防総省が2020年に建造を発注した新型のフリゲート艦「USSコンステレーション」は、2026年に就役予定だったが、現時点での進捗は船体建造で10%にすぎない。当初の予算は13億ドルだった。すでに少なくとも6億ドル増となっている。費用や工期がどれくらい膨らむのかは予測困難だ。

 ヘレナとコンステレーションは、衰退する米国の海洋覇権を示している。世界の海を支配した米国は、いまや外洋航行船は1隻も作ることができない。2023年に中国は3300万トン、韓国は1800万トンの船舶を建造したが、米国は6万4800トンに過ぎない。中国は全世界の船舶建造量の50%を超える。米国は0.1%だ。事実上、市場から退出した。米国が作った商船は世界で1%未満だ。米国は液化天然ガス(LNG)の輸出国だが、LNG運搬船は1隻も保有していない。

 商船の造船所は2カ所しかない。残りは軍艦だけを取り扱う。商船の造船所のうちの一つであるフィリー造船所は昨年9月、3600トン級のコンテナ船3隻の発注を受けた。1隻あたり3億3300万ドルだ。ところが中国では、この種の船舶は5500万ドルで建造する。韓国のハンファオーシャンは、はるかに大型の1万6000トン級を2億ドルで建造する。フィリー造船所は昨年12月、ハンファに買収された。

 造船能力は海軍力と等しい。米海軍の力は急激に衰退している。潜水艦を含む米国の艦艇は、1980年代末の約600隻から半分の295隻にまで減少した。中国は現在370隻だ。米国は2054年までに390隻に、中国は2030年までに435隻に増やす予定だ。

 米国は軍艦の性能が優れており、設計能力が独創的だと自負している。中国と韓国が追い越すのは時間の問題だ。中国は2014年~2023年に艦艇157隻を、米国は67隻を新規就役させた。韓国と中国は米国に比べ、船舶の製造コストと時間において、3倍以上の能力を示している。

 フリゲート艦の建造では、中国の南陽は5年、韓国の東海と天安は3年を要したが、米国のコンステレーションは7年かかると予想されている。駆逐艦では、韓国の正祖大王と茶山丁若鏞は2年、中国の南昌は6年だが、米国のパトリック・ギャラガーなどは8年だ。米国の艦艇は就役と修理時間が同程度だ。潜水艦「USSボイシ」は14年に及ぶ修理を経て、2029年に海に戻る。修理費は12億ドルだ。

 バスコ・ダ・ガマが喜望峰を越えてアジアへの新航路を発見して以降、海と海路の掌握は覇権国の必要十分条件だった。太平洋戦争で米国は真珠湾攻撃を受けても、わずか6カ月後のミッドウェー海戦で戦況を覆した。強大な造船と製造業の能力によるものだ。当時の米国は商船の建造を7カ月から6週間にまで短縮した。

 そのような米国がいま、韓国に手を差し出した。ジョー・バイデン前政権のときから、韓国・日本との協力を模索した。カルロス・デル・トロ海軍長官は昨年9月、蔚山(ウルサン)の現代重工業を訪問したところ、開いた口が塞がらなかった。潜水艦などの軍艦を含む40~50隻を建造し、米国が開発した最新鋭の艦艇であるイージス艦も、半分の費用と時間で建造するのを目撃したためだ。米国には、艦艇と商船の双方を建造できる造船所はなく、どの造船所も、現在は大洋航海商船を作っていない。デル・トロ長官は米国への投資を要請し、ハンファオーシャンがフィリー造船所を買収した。

 韓米関税交渉で韓国が提示した米国造船業の支援プログラム「米国の造船業を再び偉大に」(MASGA)は、実際には韓国側のアイデアではないわけだ。米国は、自分たちの世界覇権の核である海洋力を韓国にゆだねようとしているのだ。覇権国が覇権の核心を外国、それも過去の「封臣国」にゆだねようとした前例があっただろうか。

 韓国にとって、前例のない危機であり機会だ。韓国の造船などの製造業の能力と資金が一方的に搾取され、米中対決で後戻りできなくなり、米国と一蓮托生になる恐れがある。米国に対する韓国の交渉力や地位が高まり、韓国の造船などの製造業の能力が強化されることもありうる。一つ確実なのは、いまや韓国は米国に対して本質的に「乙(弱い立場)」でないということだ。韓国がいまや「乙」ではないこと、対等なパートナーであり、さらに進んで、ときには「甲(強い立場)」の場合もあるという自覚が前提にならなければならない。

 李在明(イ・ジェミョン)大統領は24日、MASGAプログラムを具体化する米国訪問を行う。元は日本を侵攻しようとして高麗に船舶の準備などを押し付ける麗蒙連合軍を組織した。MASGAプログラムがそうなってはならない。

2025/08/13 19:13
https://japan.hani.co.kr/arti/opinion/53969.html

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