「南山公園の一角にある安重根(アン・ジュングン)義士祈念館。朝鮮の独立運動家・安重根の生涯を紹介する博物館です。安重根といえば、初代内閣総理大臣の伊藤博文を射殺した人物として、歴史の授業で習った人もいるでしょう。しかし、日本の教育のなかでは、なぜかれが伊藤博文を射殺したのか、その背景について深く学ぶことはあまりありません」
3月に日本で出版された本『大学生が推す 深堀りソウルガイド』の一節だ。日本でこのような内容が書かれた韓国旅行ガイドブックは極めて異例だ。日本では安重根義士のことを、明治時代の尊敬される人物・伊藤博文首相を射殺した「テロリスト」として学ぶ。このガイドブックには、ソウルの人気スポットである「Nソウルタワー」の様々な見どころ・食べ物なども紹介されるが、日本人には不都合に思われかもしれない内容、例えば安重根とは誰なのか、彼が主張した「東洋平和論」とは何なのかまで、分かりやすくまとめられている。
この変わったガイドブックは、日本の大学生6人がソウルのあちこちを直に巡りながら書いたもの。先月30日、東京都国立市にある一橋大学で、社会学部の加藤圭木教授(40)と、この本を作った根岸花子さん(22)、藤田千咲子さん(22)に会った。
「ドラマ、K-POPなど韓国が好きで旅行に行く日本の人々に、何か役に立ちながら歴史問題にも触れる機会になるのではないかと思い、ガイドブックを作りました」。社会学部4年生の根岸さんは「2022年秋に韓国に初めて旅行に行った時、いわゆる日本人観光客がよく行く観光地の近くに歴史的に非常に重要な場所があるということを知った」とし、これを分かち合いたかったと話した。同じく4年生の藤田さんも「この本は必ず行ってみるべき観光地、美味しい店も紹介しながら、歴史を学んだり一緒に考えられる内容が十分に含まれているというのが特徴」だとし「こんな本は日本で初めてではないかと思う」と紹介した。
一橋大学社会学部の学生たちが「韓日の歴史にしっかり向き合おう」といって書いた本は、今回で3冊目だ。2021年『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』、2023年『ひろがる「日韓」のモヤモヤとわたしたち』という本が出版された。いずれも加藤ゼミの学生たちが著者という共通点がある。
加藤教授は「2020年のゼミ中に(最初の)本を作ろうという提案が出ました。ゼミで日本と朝鮮、日本の朝鮮植民地支配問題などについて初めて率直に話をしながら、これが人権の問題だということに気づき、学生たちの学びに対する意欲が高まった」と、当時の雰囲気を伝えた。なぜ日本社会はこのような重要な人権、歴史問題について話せないのか、こうした日本社会の状況を変えなければならないのではないか、などの意見が出て、本出版につながった。「わたしをとりまくモヤモヤ」「どうして日韓はもめているの?」「日韓関係から問い直すわたしたちの社会」など、本の目次を見ても分かるように、難しい学術書ではなく、一般市民の目線に合わせた本だ。
本が出版されると、SNSを中心にK-POP好きなファンたちの間で大きな話題になった。周りの人たちとは気軽に話せなかったが、心の中で気になっていた韓日間の敏感な問題を、この本がきちんと説明してくれたからだ。これまでに1万2千部が売れた。加藤教授は「日本の植民地支配の責任を訴えるテーマの本としてこれほど売れたケースはほとんどないと思う」と強調した。
日本でこのような「新しい歴史」を書いている「加藤ゼミ」とは、一体何だろうか。一橋大学は学生の研究・指導においてゼミを重視しており、3年生になると必ず一つのゼミを選択する。「加藤ゼミ」に所属するのは、朝鮮の近現代史や日本の歴史認識問題などに関心のある3、4年生の学生7~8人。週1回、2~3時間ほどの授業だ。読みたい文献を決めて議論を行い、一緒にご飯を食べたり、研究のための旅行に行ったりもする。加藤教授が同校に着任した2015年から始まった。
「加藤ゼミでは三つを大切に考えています。第一に、歴史学の研究成果として明らかにされた事実をもとに勉強すること。第二に、人権を重要に考え、歴史の中で被害者、女性、植民地支配を受けた被害民族など、人権の視点で歴史を学ぶこと。第三に、学生たちの主体性。一方的な学びではなく、自分たちがこの社会に住みながら感じた疑問を踏まえながら、これをもとに自分たちが問題を解決していく主体的な姿勢を重視しています」。加藤教授は、「ゼミでは学生同士で話し合い、各自疑問に思うことを互いに打ち明けて話す」とし、「私は最後に少し意見を付け加える程度」と話した。
根岸さんと藤田さんは2022年、3年生の時からゼミに参加している。根岸さんは「1年生の時、加藤先生の授業で読んだ田中宏先生の『在日外国人』という本が直接的なきっかけ。自分は日本社会における差別の問題について全然知らなかったこと、自分自身が差別の加害者になっていることに気づきました」と語った。これをきっかけに朝鮮近現代史を学びたいと思い、加藤ゼミに入った。
藤田さんは「K-POPを聴きながら韓国という国自体について関心を持つようになりました。ツイッターで嫌韓や(韓国に対する)差別的な内容を発見し、文化的には交流が盛んな一方で、なぜこのようなヘイト表現が多いのか問題意識を持つと同時に、私はこれまで植民地支配の歴史について特に考えず、学ばずに生きていたことに気づきました」とし、「勉強したいと思ったけれど、どんな本を読めばいいのかよくわからなかった。こんな悩みの中で『加藤ゼミ』に行って学ぼうと思ったんです」と話した。「ゼミに参加するまで、このような話を友人や同世代の人々と話したことがなかった。ゼミでは普段感じるもやもやについて共有することで問題意識も深まり、周囲の人々から刺激も受けることができてとても良い」。藤田さんと根岸さんは昨年韓国に留学し、4年生になった今年も「加藤ゼミ」に参加している。
日本でK-POPと韓国ドラマが好きな10~20代はとても多いが、韓日を巡る歴史問題に関心がある人は少数だ。「日本では被害者として自分たちのことを考える傾向が強い。アジア太平洋戦争を学ぶ時も原爆や空襲など被害を受けた部分を学ぶ。このような被害を受けたので戦争は良くないという教育」。 根岸さんは「朝鮮侵略と植民支配という加害の歴史はよく分からないか、学ぶ努力しようとしない」歴史教育の不十分さを挙げた。
「日本はいまだに帝国主義を正当化し、その論理を内面化していると思います。過去の歴史をきちんと反省しなかったために、その精神が残存し再生産されている。日本にとって不都合な歴史は見ようとしない。政府も歴史教育をきちんと行わず、メディアもこのような問題を積極的に取り上げなかったり、むしろ隠蔽しています」と、加藤教授は声を強めた。
韓日関係の懸案についても尋ねてみた。尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は強制動員被害者賠償問題に関して、日本の被告企業ではなく韓国の財団が肩代わりする一方的な譲歩案を進め、韓日政府間の関係は改善しつつあるが、被害者たちは謝罪と賠償を要求して闘い続けている。
加藤教授は「被害者の人権と尊厳が回復されなければならない問題です。日本は歴史的事実を認め、公式謝罪と賠償、歴史教育などの措置を取らなければならない」と強調した。根岸さんは「外交と政治の観点よりは、人権が尊重されなければならないと思います。被害者たちはなぜ声を高めているのか、その状況を見るべき」だとし、「これは私たちの問題です。私たちが声を出してこの問題を解決しなければ」と語った。藤田さんも「被害者が引き続き声をあげるしかない状況に対して申し訳ない気持ち」と話した。
根岸さんと藤田さんは、一橋大学だけでなく他大学の学生たちと一緒にサークルを作り、日本軍「慰安婦」被害者を含め、フェミニズム問題を勉強している。二人は「このような話ができる社会を作るために対話の場を広げていきたい」と語った。
加藤教授に4冊目の本を出す予定かと聞いた。「学生たちが本を作りたいという強い考えを持って、また自分たちがそれをやっていくという責任感があればできる。最初の本を作った時、この一冊で終わりだと思っていました。学生たちが主体的に乗り出したからこそ、3冊の本が作られたんです」。 加藤教授と学生たちの情熱からみて、「加藤ゼミ」の新たな挑戦は続くと思われた。
2024/05/15 06:25
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