北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が実際の核使用を意味する「戦争抑制力第2の使命」稼働時に「韓国と周辺地域、その同盟国の軍事組織および下部構造」が「壊滅」するとし、域内駐留米軍も核攻撃の対象になり得ることを示唆した。金委員長はトランプ米大統領との関係について「良い思い出」としながらも「非核化を議題としない対話に応じる」とし、事実上、米国の態度変化に圧力を加えた。
◆中ロの後ろ盾を信じて米国に対抗する金正恩
22日の朝鮮中央通信など北朝鮮国営メディアによると、金正恩委員長は前日、韓国の国会にあたる最高人民会議で演説し、核武力を意味する「戦争抑制力」を説明し、「抑制力の第1使命が喪失される時は抑制力の第2の使命が稼働する」と述べた。続いて「稼働すれば韓国と周辺地域、その同盟国の軍事組織および下部構造は瞬時に崩壊されるはずで、これは壊滅を意味する」と強調した。
これに先立ち金委員長は2022年末の労働党全員会議の結果報告で「核武力は戦争抑制に失敗する場合、第2の使命も決行することになり、第2の使命は明らかに防御とは違うもの」とし、「第2の使命」が核先制攻撃など核使用であることを暗示した。金委員長が「韓国と周辺地域同盟国の軍事組織」に言及したのは、韓半島(朝鮮半島)を越えて在日米軍など増援戦力を送る可能性があるインド太平洋地域の米軍も核攻撃の対象という点を初めて確認したとみることができる。
金委員長が「米国の覇権志向的なインド太平洋戦略とその実現のための脚本に基づき米韓、米日軍事同盟と米日韓3角軍事連携体制」が強化するのを非難したのもこうした分析を後押しする。
北韓大学院大学のキム・ドンヨプ教授は「米軍兵力はもちろん軍作戦と直接・間接的に連結している基盤施設(インフラ)も核先制打撃の範囲に含まれているという意味」とし「民間領域の空港・港湾に、軍需産業、原子力発電所、衛星・情報通信のような情報・産業インフラまで直接的なターゲットになる可能性がある」と話した。金委員長がこうした発言には、今月初めに中国の戦勝節行事に出席して構築した朝中ロ連合で高まった自信が作用したとみられる。
実際、金委員長は「わが国家の物理的抑制力上昇強勢により地域での力の均衡が保障されている」とし、すでに北朝鮮が域内「核均衡」の一つの軸を担っているかのように主張した。また、日本に米国の中距離ミサイルシステム「タイフォン(Typhon)」が初めて配備されたことも「わが国家を含む地域核列強の領土縦深が米軍の常時直接照準圏内に入る初の安保危険変数」と問題視した。中国とロシアから事実上核保有国と認められ、肩を並べていることを誇示したという分析だ。
◆「非核化=違憲行為」 議題化を拒否
金正恩委員長は核保有を明示した憲法に言及しながら「今はもう非核化をしろというのは我々に違憲行為をしろということだ」と主張した。また「我々がなぜ非核化をするのか、制裁解除を求めるのか。とんでもない」とも話した。2019年の「ハノイ・ノーディール」当時には制裁緩和を非核化の見返りとして要求したが、これさえも適切な「補償」にはならないと宣言したということだ。
慶南大のイ・ビョンチョル極東問題研究所教授は「北が違憲表現まで使ったのは事実上非核化に終焉を告げたという意味」とし「韓国政府が期待する南北関係の進展を期待するのは事実上難しくなった」と述べた。
金委員長は「核を放棄させて武装解除させた後に米国が何をするかについて世界はすでによく知っている」とも話したが、代表的な「先に核廃棄-後に補償」方式のリビアモデルを改めて拒否したものとみられる。2003年の非核化後に残酷な独裁を続けたムアマル・カダフィは2011年の「アラブの春」民衆蜂起当時、群衆の暴行を受けて死亡した。
◆「米国と向き合うことも可能」余地も
これは「彼はすでにニュークリアパワー(nuclear power、核保有国)」(2025年1月FOXニュースのインタビュー)などと言いながら北朝鮮の核保有にやや緩い認識を見せたトランプ大統領を攻略し、非核化を交渉テーブルから除いて核軍縮対話をしようとする意図とみられる。
実際、金正恩委員長は「米国が無駄な非核化への執念を捨てて現実を認めたうえで我々との真の平和共存を望むなら、我々も米国と向き合えない理由はない」とし「私はまだ個人的には現米大統領トランプに対する良い思い出を持っている」と話した。金委員長がトランプ大統領や朝米首脳会談の可能性に言及したのはトランプ政権2期目に入って初めてだ。
慶南大のイム・ウルチュル極東問題研究所教授は「国際核不拡散メカニズムで『弱点』といえるトランプ大統領を特定ターゲットにし、米国の政策変化を誘導しようという戦略」とし「交渉の敷居を高めて自らの核保有を既成事実にしようという意図が強く見える」と話した。
一部では時期上トランプ大統領の出席が予定された来月の慶州(キョンジュ)アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議などに合わせて北朝鮮が米国との高官級接触を再開するのではという解釈も出ている。23日に始まる第80回国連総会高官級会期にも北朝鮮は国際機構担当の金善慶(キム・ソンギョン)外務次官を団長とする高位級代表団を派遣する可能性がある。
ただ、北朝鮮が「平和共存」の条件を難しく設定したのは、実際の交渉の可能性を減らしたという指摘だ。統一研究院のホン・ミン研究委員は「核保有国認定と関係改善(平和共存)意志が対話の『敷居』であることを具体的に再確認した」とし「何かをやり取りする交渉というより、核保有国として対等な対話、関係改善構図に根本的な転換を要求するとみられる」と話した。
イム・イルチュル教授も「トランプ大統領に『現実認定』(核保有黙認)を決断するように圧力を加えると同時に、交渉失敗時に軍事的エスカレーションカードを維持する戦略」と評価した。
2025/09/23 09:02
https://japanese.joins.com/JArticle/338975