ある中小エンジニアリング企業では、60歳以上の退職者の再雇用が増えるにつれ、悩みが深まっている。適正な賃金水準を決めることが容易ではないためだ。一気に給与を減らしたところ、当事者たちが激しく反発した。最終的に、段階的に引き下げ、年金支給年齢になれば、業界のフリーランスの年俸の水準に合わせるという妥協案が出てきた。それでも、不満を持つ職員が現れた。「若い職員と同じ仕事をするのに、なぜ賃金を削るのか」というものだった。同社の代表は「『息子さんの世代のために譲歩してほしい』と説明したが、客観的なデータで成果を評価し、それに対して報酬を支払っているわけではないため、納得してもらうのが難しかった」と述べた。従業員ごとに能力と成果に違いがあり、高齢者だからといって一律に調整するのが合理的なのか、自身も疑問を抱いているという。
定年延長に関する立法の議論が空転を繰り返すなか、産業の現場ではきわめて現実的かつ具体的な質問であふれている。すでに、各企業の必要に応じて退職者を再雇用し、誰をどの程度長く、どのような条件で働かせるのかを決める必要があるためだ。
現時点で企業が施行しているのは、一般的には選別的な再雇用だ。既存の職員で充足できない業務の需要を満たし、賃金水準も新入社員の水準にまで大幅に下げるケースが多い。一言で言うと、労働者側よりは使用者側に有利な設計だ。そのため、大小の摩擦が生じることがある。繊維素材の製造企業の人事担当者も似た苦悩を打ち明けた。退職者の再契約を1年単位で行っているが、更新の有無をめぐりしばしば紛争が起きているという。契約延長が不可能な場合、より劣悪な職場に移る可能性が高いため、再雇用の対象になろうとする競争も激しい。
定年延長は特に韓国において「深刻な問題」だ。米国は法律で年齢差別を禁止しており、英国も法定定年を強制していない。両国ともに退職時期については労働者の選択を尊重する。ドイツをはじめとする年金制度が成熟した国では、年金支給年齢が事実上の定年だ。義務化された定年の概念が通用する国は韓国と日本ぐらいだが、日本は早々に65歳までの雇用を義務化したのに続き、70歳までも働く機会を与えている。
韓国は年金制度と労働市場が分かれて動いている。1998年に老齢年金の支給時期を60歳から65歳に引き上げる年金改革が断行された。少子高齢化によって、年金財政の安定性が重要になったためだった。しかし、50代で職場から追い出される年金受給者の立場としては、何の準備もなく所得の絶壁を迎えることになった。支払猶予期間を経て年金支給年齢が61歳に上がり始めた2013年、法定定年(60歳)が義務化された。それでも、施行は2016~2017年にずれ込んだ。他国では年齢差別の仕組みだった法定定年は、韓国では定年までの雇用を維持する最小限の保護装置だった。その後、5年ごとに年金支給年齢は1歳ずつ上がっているが、定年は依然として60歳に縛られている。さらに引き上げようとしたが、社会的合意を得るのは容易ではなく、政府と政界も強い意志を示さなかった。企業負担の増加や青年採用の萎縮などの理由が足かせとなった。
「遅れた」合意による社会的負担は、ますます重くなっている。高齢人口が急増し、老後の所得のために雇用を必要とする人たちが増えているためだ。ちょうど今、与党が定年延長のための立法を推進しており、国会主導の社会的対話機構も、15日に発足した。社会的対話に弾みをつけるためには、いくつかの前提条件が必要だ。一つ目に、経済界は議論の出発ラインを原点に戻してはならない。経済界が固執する選別的再雇用は、今でも企業が自主的に行っている。今年5月に出された経済社会労働委員会の公益委員勧告案も、一部の条件付きだが義務再雇用を根幹としている。義務再雇用を最小限にとどめたうえで、定年延長ロードマップを策定することが、高齢労働者の雇用保障という議論の趣旨に合致する。
二つ目は、賃金体系の改編交渉を労働界が主導するのはどうか。定年延長にともなう賃金調整をどのような方式と水準にするのかは、中心的な争点だ。経済界は年功型の賃金体系全体を変えようとしている。60歳定年制の立法当時の政府が勧告した賃金ピーク制は、いまだに法的紛争が絶えない。高齢労働者の賃金を削ろうとするのであれば、合理的な理由が必要だ。「同一労働同一賃金」は、労働界が長年目指してきた価値だ。賃金だけでなく全般的な勤労条件の水準に対する原則と基準を労働界が先に提示し、二者択一の議論に発展させてこそ、消耗的な攻防を減らすことができる。
三つ目に、政府がどのような政策的な支援に乗り出すのかを明確に示さなければならない。日本は定年後の雇用義務化を施行し、高齢者の賃金削減分を雇用保険で一部補填した。既存賃金の75%未満を支給する場合、その減少幅に応じて調整して支援する。定年延長は労使間の利害対立が拮抗している。政府は政策的な支援方案を積極的に提示し、潤滑油の役割を果たさなければならない。
2025/10/16 18:40
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