ドナルド・トランプ米大統領は昨年1月20日、就任直後に「エネルギー緊急事態」を宣言した。世界最大の石油・天然ガス生産国であり、エネルギーの純輸出国でもある米国が突然非常事態を宣言したことを受け、国際社会は戸惑った。米国の歴史において、エネルギーを理由とした緊急事態は初めてだったからだ。トランプ大統領は、この措置がパイプラインや精製施設、鉱山などの化石燃料インフラ開発を加速させる触媒になると主張した。同日、トランプ大統領は石油・ガスのボーリング調査を速やかに許可し、各種の規制を大幅に緩和するための「米国エネルギー潜在力解放」行政命令に署名し、パリ気候変動協定からの脱退も指示した。
トランプは選挙キャンペーン期間中ずっと「ドリル(掘り下げろ)、ベイビー、ドリル」と叫んだが、それは空言ではなかった。今年2月24日にホワイトハウスが公開した1年評価資料によると、米国のエネルギー政策の方向性が前任のジョー・バイデン政権とは正反対の方向に転じたことは明らかだ。「トランプ大統領の下で、米国のエネルギー支配力が戻ってきた」というタイトルの同文書は、石油のボーリング調査に対する許可が55%急増し、「美しく清潔な石炭」の復活、国際規制協定からの脱退、原子力の復興、電気自動車の義務化中止を成果に挙げた。温室効果ガス排出規制の法的基盤である「温室効果ガス有害性判定」の廃止も、実績として掲げた。再生エネルギー中心のエネルギー転換政策を覆し、再び化石燃料中心の体制に戻ったといえる。
■「再生エネルギーへの転換」を揺るがそうとする野望
米国は19世紀中頃から第二次世界大戦まで、世界最大の産油国の地位を占めていた。20世紀前半から中期にかけて、世界の産油量の3分の2を占め、第二次大戦中に連合軍が消費した石油70億バレルのうち約60億バレル、すなわち85%を供給した。戦車や軍艦、戦闘機など石油を基盤とした新兵器が勝敗を分けた二度の世界大戦において、「産油国」米国の影響力は非常に強大だった。しかし、自動車の普及に伴い石油消費が急増したため、米国は1948年から原油輸入国となった。特に1973年の第4次中東戦争、第四次中東戦争(ヨム・キプール戦争)の際、アラブ産油国の禁輸措置により原油価格が4倍以上に急騰したことで、中東産原油はエネルギー安全保障を超えて米国の対外政策全体を制約する足かせとなった。
ところが、この構図は2010年代の「シェール革命」によって覆された。米国が水圧破砕技術でシェール層から大量の原油とガスを抽出したことで、エネルギーの地形が変化したのだ。米国は2018年にサウジアラビアとロシアを抜いて、世界最大の産油国となった。昨年のデータによると、米国は1日あたり約1341万バレルを生産し、サウジアラビアは947万バレル、ロシアは913万バレルの規模だった。このようなエネルギー大国が、わざわざエネルギー緊急事態を宣言した背景は何だろうか。
トランプ政権のエネルギー政策の核心キーワードは「エネルギー支配」だ。これはエネルギー自立を超えて、エネルギーを国家安全保障とグローバルな影響力拡大の主要手段とする戦略。この構想の設計者の一人とされるダイアナ・ファーシュトゴット=ロス(Diana Furchtgott=Roth)ヘリテージ財団エネルギー・気候・環境センター元局長は、「この構想は単なる経済政策ではなく、戦略的なドクトリン」としたうえで、四つの目標を提示した。米国内で化石燃料と原子力を活用したエネルギー自立、国際エネルギー価格への影響力の行使、米国と同盟国への安価で安定したエネルギー供給、そして中国のグリーンエネルギー供給網への依存度の縮小がそれに当たる。昨年2月に設立された大統領直轄の「国家エネルギー支配力委員会」(NEDC)は、「トランプ大統領は米国を再び『エネルギー支配国』に返り咲かせると約束した」と明らかにした。20世紀前半から中盤にかけて享受したエネルギー超大国の地位を、21世紀型に復元するという宣言だ。
この戦略は、化石燃料から再生エネルギーへの転換という西側の政策方針そのものを揺るがすという野心を内包している。ファーシュトゴット=ロス氏は「カーボンニュートラル目標を拒否することで、米国は新たな基準を提示している」とし、「エネルギー(化石燃料)に配慮した政策の下で米国の経済成長が加速すれば、他国は自国の政策を見直す必要があり、そうしなければ経済不況のリスクに直面するだろう」と主張する。氏は1980年代のレーガン政権による大規模な減税を前例として挙げている。1986年に米国の最高税率が引き下げられた後、1988年の1年間でイギリス・カナダ・日本・ニュージーランドが競争力維持のために次々と税率を大幅に引き下げたということだ。エネルギー政策においても、主要国が米国に従わざるを得ないという主張だ。
■レアアース対化石燃料、米中の資源対決
マルコ・ルビオ米国務長官は、今年2月のミュンヘン安全保障会議で意味深い発言をした。 「『気候カルト』(気候変動の熱狂的信者)をなだめるために、私たちは国民を貧しくするエネルギー政策を自ら強要してきた。その間、競争国らは石油、石炭、天然ガス、その他すべての資源を搾取し、経済を活性化するだけでなく、我々を圧迫するテコとして活用している」。これは、昨年中国が米国の高関税に対抗してレアアース輸出規制カードを切り出したことを意味する発言といえる。レアアースは電子機器・半導体・自動車はもちろん、米国の先端兵器にも不可欠な原材料。米国は中国の輸出規制により自国のメーカーが生産に支障をきたす中で、レアアースの武器化の威力を実感させられた。ロシアが欧州のロシア産原油・ガスへの依存度をテコにして欧州に圧力をかけてきた行動も念頭に置いているものとみられる。
米国のエネルギー支配戦略には、中ロとの覇権争い、特に中国を牽制する構図が色濃く反映されている。ベネズエラへの急襲とイランへの侵攻は、これを象徴的に示している。 ベネズエラは世界最大の原油埋蔵量を誇る国であり、中国にとって主な原油供給国の一つ。イランもまた、膨大な原油・天然ガス埋蔵量を有し、世界の原油・天然ガス輸送量の20%が通過するホルムズ海峡を支配しているが、この海峡は中国のエネルギーの命綱でもある。米国が両国に親米政権を樹立すれば、中国のエネルギー輸入ルートを直接圧迫できるようになる。米中の人工知能(AI)競争も見逃せない。AIの開発・運用に必要なデータセンターや半導体の製造には、莫大な電力がかかる。トランプ大統領はこの需要を化石燃料ベースの発電で賄うつもりだ。
米シンクタンク「アトランティック・カウンシル」のエネルギー専門家サラ・バクシュリ氏は「エネルギー支配戦略はエネルギー資産、戦略的要衝、そして世界のエネルギーフローのコントロールまでを含む概念だ」とし、「中国が鉱物供給網で優位に立っている一方、米国の比較優位はエネルギー生産力、海洋安全保障、エネルギーフローのコントロール、そしてエネルギー取引を支配する国際金融システムにある」と語った。鉱物をテコにしている中国に対し、米国が化石燃料をテコに対抗する状況だという診断だ。
■「資源の呪い」そして撹乱への道
「我々はその海峡を使っていない。必要もない。だが欧州は必要だ。韓国、日本、中国、そして多くの他国も必要としている。したがって、彼らはその問題にもう少し関与すべきだ」。トランプ大統領は3月20日、イランのホルムズ海峡封鎖に対して他国の参加を促し、このように述べた。石油・ガス自給国となった米国の力と危険性を同時に示す発言だ。海峡が封鎖されても米国には特に問題がないという認識を示すと同時に、海峡封鎖というリスクを冒してでも政権交代といった攻撃的な目標を追求する可能性を示唆している。かつて米国が原油輸入国だった頃は、海上貿易路の安定を巡って他の輸入国と利害を共有していたが、現在は貿易路の安定よりも長年の宿敵であるイラン政権の交代を優先する動機が生まれたのだ。イラン侵攻は、これまでのどの米大統領も敢えて試みたことのない出来事だ。
しかし、そのような野望を実行するには現実の制約があまりにも大きい。 まず米国内の原油価格急騰は、トランプ大統領の価格引き下げ公約に反するだけでなく、11月に行われる中間選挙にも大きな悪材料となる。 米国内の原油価格も国際価格に連動しているため、生産拡大だけで国内価格をコントロールするには限界がある。イランの抵抗も決して弱くない。ホルムズ海峡の封鎖を解除したり、重要な産油拠点であるハルグ島を掌握するには、地上部隊の投入が不可欠だ。かなりの人的被害と長期的な介入を覚悟しなければならない。
ロサンゼルス・カリフォルニア大学(UCLA)のマイケル・ロス教授とジョージタウン大学のエリック・バートン教授は、フォーリン・アフェアーズへの寄稿で、石油とガスは寛大な福祉や対外援助を支える祝福となり得る一方で、同時に呪いにもなり得ると警告した。彼らは「概して産油国はより権威主義的な政権、より好戦的な外交政策、より高度な腐敗を示す傾向がある」とし、「この流れは米国にも徐々に適用されつつある」と語った。問題的な産油国は、内部志向の「孤立型」と、国際ルールを無視して海外の民兵を支援したり隣国を侵略したりする「撹乱型」に分かれるが、米国は現在ロシアのような撹乱型の道を歩んでいると指摘した。トランプ大統領のエネルギー支配戦略は、米国の覇権を維持・強化するよりも、過剰な軍事介入を招き、米国を「資源の呪い」の罠に陥れる危険性を高めている。
2026/04/01 15:31
https://japan.hani.co.kr/arti/international/55819.html