7日に行われた東京都知事選挙は、いくつかの意味で日本社会の現状を反映した大騒ぎだと思える。第一の特徴は、日本の女性蔑視の反映という点である。世論調査で1位と2位だった現職知事の小池百合子氏と蓮舫前参議院議員は、国会議員を長い間務め、知名度もある。この点をとらえて、メディアは「女の対決」とはやし立てた。このような盛り上げ方は、今の日本における男女平等についての認識の浅さの反映である。小池氏は、関東大震災における朝鮮人虐殺の犠牲者に対する追悼メッセージをかたくなに拒絶するという点で歴史修正主義者であり、まっとうな人権感覚を持った政治家とは言えない。最大の繁華街、新宿で行き場のない若い女性を性産業から守るための支援活動をしてきた市民団体に対して、とあるネットのインフルエンサーがいやがらせを続けたという事件があった。東京都はこの市民団体に対する財政補助をしていたが、暴力的な嫌がらせを排除することには積極的ではなく、結局、市民団体の活動は停止に追い込まれた。小池知事は当然、事の成り行きを把握していたはずだが、女性の人権を守るために断固たる行動をとったわけではない。
昔、南アフリカでアパルトヘイトがあったころ、日本人は欧米人並みに扱うということで、名誉白人という称号を与えられていた。その類推で言えば、小池氏は「名誉男性」である。だから、この選挙戦は女の戦いではなく、名誉男性と女性の戦いである。
第二の特徴は、世論調査を見る限りの話だが、日本社会に蔓延する根拠のない現状肯定が選挙結果に現われているという点である。朝日新聞の世論調査によれば、都民の約70%が小池都政を評価すると答えている。それゆえ、小池氏はリードを保った。私も東京の住人なので、この感覚は理解できる。安定した収入のある人間にとって、東京は便利で、刺激に満ちていて、楽しい所である。しかし、非正規労働者、高齢者、シングルマザーなど、不安定な立場の人にとってはきわめて住みにくい所でもある。東京都庁の前では、市民団体による食料品の無料配布が行われているが、生活困窮者が長蛇の列をなしている。
東京がいつまで繁栄の都でありつづけるのか、わからない。これから急速に高齢化が進むことは避けられないが、東京は人口が多いので、医療、介護の基盤が不足することも明らかである。日本経済が停滞を続ける中で、中間層の崩落が続けば、東京の二極化は深刻になる。清潔さや治安の良さなどの東京の美点が将来どうなるのか。本来、この知事選挙でそうした未来の危機を見据えて政策論争をしなければならないのだが、小池氏が論争の場を避けていることもあって、有意義な議論が行われてはいない。
第三は、選挙とは市民が政治の在り方についてまじめに考え、意思表示をする機会であるという民主政治の大前提が崩れかかっている点である。この知事選挙には50人を超える候補者が立候補している。無名であっても都政を真剣に考え、政策を訴えたい人が立候補するのは自由である。しかし、およそ都知事になるつもりのない人々が大量に立候補しているのが、今回の選挙である。都知事選挙の場合、候補者は300万円の供託金を法務局に納めなければならず、有効得票のうち10%以上を獲得できなければそれは没収される。選挙をビジネスと考える人々は、テレビの政見放送に出たり、ポスターを貼ったりして名前を売り、それをソーシャルメディアで拡散して大きな利益を得ようとする。
選挙にまじめに取り組むことは、社会全体の課題である。立候補や選挙運動が自由である以上、この種のビジネスを取り締まることはできない。ならば、既成の政党と政治家が国会やメディアでまじめに論争をし、政治の世界に緊張感を取り戻すことが、以前にも増して必要となる。
山口二郎|法政大学法学科教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
0000/00/00 00:00
https://japan.hani.co.kr/arti/opinion/50527.html