壊れた「尹錫悦GPS外交」…国益ではなく米日ばかり見て漂流

投稿者: | 2024年5月8日

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の就任から10日後の2022年5月20日、米国のジョー・バイデン大統領が韓国を訪問した。両大統領は連れ立って京畿道平沢(ピョンテク)のサムスン電子の半導体工場と空軍航空宇宙作戦本部(KAOC)を訪問した。その後の尹錫悦大統領の外交は、米国から出された課題の解決にすべての力量を注ぎ込んだ。

 日帝による強制動員被害の問題では韓国が一方的に譲歩する「第三者弁済」で韓日の歴史にふたをし、昨年8月のキャンプ・デービッド首脳会談では韓米日軍事協力の強化へと踏み出した。尹大統領は「共産全体主義と戦う自由の闘士」として一方向だけに猪突猛進した。韓国の安保のために米国、日本と必要な協力を拡大する一方で、それによって悪化する中国やロシアとの関係、南北関係を管理する総合的戦略や努力は示せていない。そのため、尹錫悦政権はこの2年間「グローバル中枢国家(GPS:Global Pivotal State)外交」を標榜してきたが、韓国外交のGPS(全地球測位システム)が故障していると言われている。

 ソウル大学アジア研究所のペク・ポムフム招聘教授(元韓中日3国協力事務局事務次長)は、「国際秩序が急変する危険な時代に、韓国の原則にもとづく外交座標がないこと、軍事や経済安保などが絡む複雑な現実に対する理解がないこと、羅針盤もGPS(全地球測位システム)もきちんと見ずに方向を一方に固定して航海する船のように柔軟性がないこと」を問題としてあげた。亜洲大学のキム・フンギュ教授(米中政策研究所所長)は、「尹錫悦政権の外交で韓国が得たものは多くなく、コスト面が途方もなく膨らんだ」と評価した。

 北朝鮮は南北関係のことを「敵対的な2つの国家の関係」であると宣言し、韓国は「力による平和」を強調していることで、南北関係は「強対強」のにらみ合いという枠組みに閉じ込められている。当面する深刻な問題は、南北関係の完全な断絶の中、北朝鮮とロシアの密着が強まったことで、韓国の安保に対する脅威が手のほどこしようもなく高まっていることだ。もちろん根本的な原因は、2019年のハノイ朝米首脳会談の決裂後に北朝鮮が自ら選択した戦略の変化と、ロシアのウクライナ侵攻がかみ合ったことだ。しかし、尹錫悦政権の強硬な価値観外交はロシアとの関係管理に失敗し、状況を悪化させ続けてきた。

 北朝鮮の核問題、経済、サプライチェーンなどの主要懸案を中国ときちんと議論することすらせずに、感情的に争ってばかりいて状況を悪化させたことも痛い。大統領室の関係者は初期から「韓米日関係を強化すれば中国も韓国を尊重するようになる」と語り、中国との実質的なコミュニケーションの努力をしてこなかった。尹大統領の台湾問題での「失言」などを経て、状況は悪化の一途をたどった。尹錫悦大統領の高校の同期のチョン・ジェホ駐中大使は、「中国をしつける」外交の象徴だ。これにケイ海明駐韓中国大使の「ベッティング」発言をめぐる両国の感情的な争いが加わり、韓中の大使級外交は長きにわたり失われている状態だ。

 最近、中国の地方政府の指導者たちが韓国を訪問したり、チョ・テヨル外交部長官の中国訪問推進や韓中日首脳会談の開催の動きが見られたりなどで、両国が関係改善の糸口を探っていることは、それなりに肯定的なシグナルだ。キム・フンギュ教授は、「中国は韓中関係の管理の必要性は感じており、韓国の総選挙後の変化の可能性に期待してもいる」としつつも、「尹錫悦政権に対する中国の不信感は依然として強く、政府にも外交政策に対する全般的な見直しと方向転換の動きはないため、今も不安な状況」だと語る。

 韓米、韓日協力の実質的効果についても、次第に多くの疑問が呈されている。日本は独島(ドクト)領有権主張を続けているうえ、歴史を歪曲する「右翼教科書」を検定で合格させた。日本のメッセンジャーサービスであるラインヤフーの個人情報流出事故を機として、このところ日本の総務省が行政指導をおこなっていることで、日本政府がラインヤフーの株を持つネイバーに圧力をかけ、日本企業のソフトバンクに経営権を譲り渡させようとしている、との批判も相次いでいる。

 韓米関係は韓米同盟の強化や韓国企業の大規模な米国への投資などで表面的には強固にみえるが、11月の米国の大統領選挙を前に共和党候補のドナルド・トランプ前大統領が韓国の防衛費分担金の大幅引き上げを繰り返し迫るなど、不安要素が大きい。韓国企業の米国への大規模投資の利害得失も細かに検討し、冷徹に対応する必要があると多くの専門家たちは指摘する。成均館大学のチャ・テソ教授は、「米国が1970~1980年代に経済危機を克服する過程で、『プラザ合意』(1985年に米国の貿易赤字解消のために円高とドイツマルク高を人為的に誘導したもの)で日本に圧力をかけていくことで力を蓄えたことに注目する必要がある」とし、「トランプ-バイデン時代も主な標的は中国だが、米国の先端製造業を復活させるために同盟国に圧力をかけ、米国への投資を増やさせる『略奪的覇権』の姿勢も示している」と指摘した。

2024/05/07 05:00
https://japan.hani.co.kr/arti/politics/49939.html

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