世界がすっかり道を見失っている。世界の「大義名分」と「公義」が失われたためだ。大義名分と公義が消え、世界の「基準」も消えた。さらに深刻な問題は、世界の未来が普遍的な視点と道筋を失ってしまったという点だ。
いま世界を揺るがしている米国・イスラエル対イランの戦争は、人類が直面している物価・生産・エネルギー・価値の危機と比べると、勝利による現実的な効果が大きくない。その代償の方がはるかに大きい。戦争の古い格言によると、大義名分なしに利益だけを手に入れられる戦争など存在しない。隣国の間の敵対が帝国の共同侵攻で世界を危機に追い込む根拠にはならない。
世界資本主義の黄金期をもたらした今日のエネルギー安全保障体制を全面的に米国が定礎したという点でより一層自己矛盾的だ。ロシアのウクライナ侵攻を批判した米国のイラン侵攻は、現実的にもウクライナ支援の弱化はもちろん、ロシア経済の復活を助けている。しかしこれはむしろ小さな代償なのかもしれない。その侵攻は何よりも米国の物価と経済、国民統合と愛国心、民主主義と国際価値でプラスの寄与が見られない。
世界地位と世界価値の問題はさらに深刻だ。この次元で米国はたとえ勝利しても、それは利益よりも損が大きい「ピュロスの勝利」にすぎない。すなわち世界帝国と世界価値の次元では失うものが多い勝利だ。中国問題を見よう。
米国が米同時多発テロにあった当時、悲しみと怒りは十分に共感可能だった。しかし典型的な非対称戦争であるテロとの戦争は、米国がイスラムの国々と戦争をする間、世界秩序を急変させた。一方には戦争を、別の一方には特恵を付与した結果だった。米国は2001年の米同時多発テロの年に中国を積極的に後援し、12月11日に世界貿易機関(WTO)に加入させた。
ある深層調査によると、テロとの戦争は90万人の死亡と、8兆ドルの戦費をもたらした。人命損失と戦費が莫大だったことが分かる。しかしその戦争をしたイスラム諸国の体制は戦後また過去に戻った。米国が中東に集中したその時期、世界はどのように変わったのだろうか。
まず世界貿易を見よう。テロとの戦争、WTO加盟10年で中国は世界最大の貿易国家になった。近代の強大国の第一基準である製造業も同じだった。テロとの戦争期間、製造業世界1位は米国から中国に変わり、その差は大きく開いた。
テロとの戦争開始当時、世界製造業の比率は中国が米国の1/4水準(26.2%対6.1%)にすぎなかったが、終了時点に米国(15.4%)は中国(30.3%)の半分に落ちた。さらに中国は単独で米国・日本・ドイツ・韓国の製造業の総合(30.0%)を上回った。
同じ期間、商船連結指標を見ると、大西洋を除いた主な世界大洋は中国が圧倒的1位だった。商業と貿易ネットワークの側面で現在の海洋帝国は米国でなく中国だ。軍事の部分を一つ見よう。テロとの戦争以前の10年間、米国と中国の軍艦建造隻数は72対12だった(それ以前の10年間は37対1)。テロとの戦争20年間の前半は44対52と逆転し、後半は49対150で完全に差が開いた。米国の統計だ。
以上の大転換と大逆転をテロとの戦争だけを原因とするのは正しくない。そしてその戦争で米国がより安全になった点も明確に存在する。しかし非対称戦争への過度な集中が中国の膨張、米国の墜落、米中逆転を招いた主な原因であるのは明らかだ。
今日、中国は米国の相次ぐ悪手で静かに地域帝国から世界帝国に上っている。貿易、製造業、海洋ネットワーク、海軍軍艦というハードパワーを越え、価値と国際連帯も同じだ。最近の調査によると、米国と中国に対する世界の評判は後者に対する選好へと逆転している。利益と評判の変化は連帯と価値の変化に連結するため非常に危険だ。強固だった米国-欧州同盟が亀裂と葛藤に向かう現実は、米中の葛藤より重要な世界の未来を占う指標だ。旧来の普遍性と基準が自己分裂を起こして衰退しているからだ。
ホロコースト虐殺は人類最悪の悲劇だった。それは人類にホロコーストの記憶として残り、生命と人権の確固たる判断準拠となった。しかし今回の戦争で人類はホロコースト批判への完全な人類愛的な共感と連帯を実際のイスラエル国家から分離し始めた。過去と現実の分離をいう。
普遍は力と規模だけで維持されない。価値と共感と連帯が抜ければ、いかなる普遍も持続しない。さらに価値と連帯のない帝国は不可能であり、帝国興起に比べて帝国衰退は一層速い。至急に普遍価値と世界連帯を回復しなければ米国の凋落と世界混沌はさらに速まり、さらに深まるだろう。人類は依然として自由と民主主義、人権と平和を普遍の中心から下ろすことができないからだ。
パク・ミョンリム/延世大教授・政治学
2026/04/17 16:27
https://japanese.joins.com/JArticle/347823