インフレ容認の「サナエノミクス」、高圧経済という名の危険な実験(1)

投稿者: | 2026年4月27日

経済にも、政治に劣らぬ矛盾したレトリックがしばしば入り込む。「健全なインフレ」「持続可能な赤字」「所得主導成長」…。日本はさらに一歩先を行っている。過熱さえ管理すれば問題ないという、いわゆる「良いバブル」まで登場する勢いだ。高市早苗首相の経済政策、サナエノミクスを見るとそう感じる。

拡張財政と金融緩和を柱とする点ではアベノミクスに似ているが、その強度はさらに上を行く。今年、約122兆3000億円という史上最大規模の予算を編成した。また、長期間の金融緩和によって低金利を維持する構想だ。経済を目一杯加熱させ、過熱直前まで追い込もうというわけだ。

 このように金融と財政の両面から政策的に市場に圧力を加え、需要超過の状態にすることを「高圧経済(high pressure economy)」と呼ぶ。労働需給が逼迫すれば、失業者が就職できるのはもちろん、既存の就業者はより高い水準の職に移動できるようになる。いわゆる「雇用のはしご効果」だ。それに伴い実質賃金と生産性が共に向上する。また、超過需要は企業にとって利益拡大のチャンスであるため、生産と投資も増加する。この連鎖反応が繰り返され成長を牽引するというのが、高圧経済の核心である。

根拠の一つが、失業と成長の相関関係を究明した「オークンの法則」だ。失業率が1%ポイント下落する際、国内総生産(GDP)は3%増加するという元ホワイトハウス経済諮問委員長アーサー・オークン(1928~80)の持論だ。この3%を「オークンの係数」とも呼ぶ。「雇用のはしご効果」もオークンの主張だ。サナエノミクスもまたオークンの経路を追求する。すでに日本では25~34歳の女性の労働参加率が3月に85%に達し、米国(83.7%)を抜いた。

ただし、失業率が下がるほど、つまり景気が良くなるほど物価は上昇する。高圧経済の副作用だ。擁護論者は、高圧による利得が大きいため、インフレの打撃を相殺して余りあると見ている。完全雇用、賃金上昇、生産性向上、潜在成長率の改善を達成できるのであれば、インフレ程度は甘受するという立場だ。

実のところ、日本政府はインフレを内心歓迎しているのかもしれない。昨年末時点で残高が1200兆円に達する国債の償還負担が軽くなるからだ。財務省によると、日本国債の残存期間は9年7カ月だ。インフレを年2%と仮定して満期時の実質価値を計算すると、現在価値より17.3%少なくなる。金額にして200兆円以上の負担を減らす計算だ。これは日本の防衛費20年分に相当する規模だ。

理論の源流は米国だ。後に連邦準備制度理事会(FRB)理事を務めたヘンリー・ウォーリック(1914~88)が1956年にイェール大学の寄稿文で初めて使用した。その後、ノーベル経済学賞受賞者でウォーリックの同僚だったジェームス・トービン(1918~2002)と、ケネディ・ジョンソン政権に入ったオークンが高圧経済を支持した。直近で言及したのは、FRB議長(2014~18)だったジャネット・イエレン氏だ。2016年のボストン連銀カンファレンスで、高圧経済によって供給側の不振を反転させる可能性について説明した。

ところが、創案者であるウォーリックはむしろ「低圧経済」を好んだ。FRB理事時代にはポール・ボルカー議長(1927~2019)と共に強硬なタカ派として知られた。イエレン氏も高圧経済に言及した後、実際には3回連続で利上げに踏み切った。彼女は後に「高圧経済を推奨した覚えはない」と語っている。

韓国でも似たような認識があった。第5共和国最後の青瓦台(大統領府)経済首席秘書官だった朴英哲(パク・ヨンチョル)高麗大学名誉教授(87)は、退任後に「3低好況」を回顧し、次のような趣旨の発言をした。「好況時にためらいなくアクセルを強く踏み込めば、経済が大きく成長し、新たな段階に突入できるように思えた」。彼は「学者としては慎重な発言」という断りを添えたが、振り返ってみれば高圧経済と同じ文脈だ。

現在、世界的に高圧経済を政策課題として真剣に扱っている国は、日本がほぼ唯一といえる。日本景気循環学会は2022年6月に「高圧経済研究部会」を構成し、論文を発表してきた。米国や欧州では、インフレの影響で議論の対象外へと追いやられている。

日本の高圧経済論は政策決定機関にも反映されつつある。韓国銀行の金融通貨委員に相当するポストに、鮮明な高圧経済論者が近く合流する。6月に日本銀行の審議委員に就任する佐藤綾野氏(青山学院大学教授)がその主人公だ。佐藤氏は景気循環学会の理事で、「労働生産性を高めるために高圧経済が必要」と主張する論文を執筆した。それに先立ち、金融緩和論者の浅田統一郎氏(中央大学名誉教授)が今月初めに審議委員に就任している。2人とも高市首相が指名した人物であり、利上げに重きを置く植田和男日銀総裁とは距離がある。日本経済新聞は社説で「物価に不安を残す人事」と指摘した。

2026/04/27 14:46
https://japanese.joins.com/JArticle/348247

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)