「20年、30年先まで時代の潮流を読み、共働きの子育て世代をメーンターゲットにするマーケティング戦略を練った。仕事をしながら子育てしやすい環境ができれば出生率は自然に上がる」
今や日本はもちろん、韓国でも「子育て政策が充実している町」として知られる、人口21万人の都市・千葉県流山市。2003年から市長を務める井崎義治市長(70)は、流山市が成功した秘訣ついてこう説明した。井崎市長は、人口流入が続いている背景について「戦略」「マーケティング」「ブランド」をキーワードとして示しながら語った。先月、市庁舎の市長執務室でインタビューした。
流山市の知名度を向上させる契機となったのは、「つくばエキスプレス」が2005年に開通したことだった。東京・秋葉原から筑波大のある茨城県つくば市までの約60キロを最速45分で結ぶつくばエキスプレスが開通し、沿線の中間地点に位置する流山市も関心を集め始めた。井崎市長はこの好機を逃さず戦略を練った。
Q 流山市の人口は2005年の約15万人から、現在約21万人にまで増えた。人口が増加した大きな要因は。
A つくばエキスプレス沿線の開通を前に、土地区画整理事業によって、土地を売らなければならなかった。当時の流山は沿線の中でも無名の町だった。大量に売れ残る可能性があった。知名度をアップしたり、好印象を持ってもらったりしなければならなかった。調査をしてみると、町のイメージは良くも悪くもなく、白紙だった。知名度の低さは、むしろチャンスだと考えた。そこで、2005年に市に「マーケティング課」を作り、戦略を練った結果、人口流入が増えた。
Q どのようなマーケティング戦略をしたのか。
A 共働きの子育て世代に選んでもらえる町にすると決めたことだ。市長就任当時、流山市では専業主婦家庭が多かったが、東京都内では共働きが広がりつつあったので、仕事をしながら子育てができる社会環境作りを進めた。次第にメーンターゲットの方々に受け入れられて、流山にどんどん移り住んできてもらえた。私は米国で、中長期的な視点でトレンドを見て地域計画を作ることに関わっていて、こうした訓練がされていたことが役に立ったと思う。
流山市が全国的に知られるようになったきっかけは「送迎保育ステーション」だ。駅前のステーションに預ければ、市内全域の保育園への子どもの送迎を担ってくれるというシステムである。2007年に「流山おおたかの森」駅前に、翌2008年に「南流山」駅前に2カ所目をオープンさせた。
Q なぜ送迎ステーションを導入したのか。
A 市民から、保育園への送迎が大変だという声を聞いていた。また、駅から近い保育園は満員だが、駅から遠い保育園は空いていることが地図に落としてみたら如実に分かった。厚生労働省からこうした仕組み(送迎ステーション)の提案があったのがきっかけではあるが、問題意識がなければ手を挙げない。送迎の問題と、保育園の定員問題を一度に解決できる一石二鳥ということで厚労省の提案に手を挙げた。これは政策としてヒットしたと思う。現在は、送迎ステーションがあるので安心だという理由で、流山に引っ越してくる人がいるほどだ。
保育園を巣立って子どもが小学生になると、保護者は夏休みなどの長期休暇の預け先に頭を悩ますが、流山市は市内に9カ所、児童館を整備し、子どもたち向けのさまざまなプログラムを組んでいるという。また、他の自治体に先駆けて小学生から英語教育にも取り組んだ結果、「英語が好き」と答える子どもは9割に上っているそうだ。
子育て世代の人口増加に伴って、出生率は最大で40%も増えた。つくばエキスプレス開通前年である2004年の流山市の出生率は1・14と、全国平均の1・29を下回っていた。ところが2018年には1・67まで伸びた。新型コロナウイルス禍の影響などで流山市も近年はやや減少しているものの、2022年は1・50で、韓国のほぼ2倍だ。井崎市長は「仕事をしながら子育てしやすい環境ができれば、自然に出生率は上がるということ」と自信を深める。周囲に複数の子どもを育てる家庭が多い雰囲気も後押ししているという。
井崎市長はあるデータを示した。2022年に市内の小学校6年生538人を対象に実施したきょうだいの数だ。「2人」が最多の58%で、3人以上も29%に上った。井崎市長は「子どもの医療費無料化などの政策は、要望があるので流山も実施しているが、大事なことは何が無料かといった政策ではない。仕事をしながら子育てができるインフラ整備が流山市の特徴だ」と強調する。
Q 岸田文雄政権は「異次元の少子化対策」を掲げるが、どう見るか。
A 成果が出ていないのであれば、政策を変えなければならない。政府が考えなければならないのはこうした観点だ。企業の場合、利益を出さなければ株価は落ち、従業員も離れていくので何が何でも成果を出す。その本気度が政府にあれば、少子化は止められると私は思っている。
Q 韓国も出生率低下に悩んでいる。
A 韓国、日本、中国の少子化の共通項の一つは、受験教育にあまりにも費用がかかりすぎることだ。米国では受験に関してほとんど費用はかからない。韓国、日本、中国3カ国とも、現在の受験体制から脱して欧米型の大学入試制度に変えれば、出生率は少し回復するのではないかと思う。流山は今、まだ小さい子どもたちが多いが、親が受験生を虐げる「教育虐待」の問題が流山でも出てきている。高い教育費の負担があるうえ、こうした課題が深刻化した場合、出生率は上がらなくなるだろう。脱人口減少対策は、大学入試制度改革だと思う。韓国も日本も少子化対策の成果が出ていないのだから、原因は全然違うところにある可能性が高いということだ。成果が出ていないのは本気で取り組んでいない証拠だ。それは韓国も日本も同じだ。本気になれば、ほとんどのことは成就すると私は考えている。
2024/09/03 11:56
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