保守の空白と連帯の政治【寄稿】=韓国

投稿者: | 2025年4月16日

 民衆は風より先に倒れたが、最後には風より先に起き上がった。今回の内乱事態でも間違いなく、この地の草が立ち上がった。世界各地で民主主義が後退しているなか、大韓民国の民主主義は驚くべき回復力をみせた。もちろん、水が引いた後にあらわれる汚物のように、内乱後には「開かれた社会の敵」が正体をみせた。民主化後の長い年月にもかかわらず、民主的統制の死角地帯は今も変わっていない。民主主義の持続可能性のために進まねばならない道はまだ遠い。

 韓国の民主主義の決定的な欠陥は保守の空白だ。憲法を否定して民主主義を破壊しようとした勢力を、どうして保守と呼ぶのだろうか。保守の座を占めた極端勢力は、野党の存在を認めず、国民の声に耳を閉ざし、国家を私的利益の手段とした。一言で言うと、愛国心がない。そして、最終的に無能が明らかになると、国を守る軍隊を政権維持のために不法に動員した。時代が変わったことを知らなかったのだ。

 韓国現代史において、民主主義の規範を受け入れる保守を見出すことは難しい。戦後の世界史で分断と戦争を経験した朝鮮半島と、中立化の統一を成し遂げたオーストリアの事例の決定的な違いは何だろうか。まさに合理的保守の存在の有無だ。戦後のオーストリアは、左右の穏健派が協力し、極端な勢力を抑制して理念の対立を防いだ。国内の団結によって強大国を説得することができた。つねに国内政治と外交の共通点は交渉能力だ。国民を説得できない政府は、外交を上手にこなすことはできない。大韓帝国の崩壊と解放後の分断までの国内の分裂が外勢の介入を呼び、それが植民地と戦争につながった。この地の悲劇の歴史は分裂の結果であり、それは保守の空白のためだ。

 いまだに独裁の歴史を称賛してクーデターを擁護する勢力が保守の座を占めるかぎり、民主主義が機能することは難しい。民主主義の広場に入っていくためには、少なくとも、物理的暴力は放棄しなければならない。政界は少子高齢化や気候変動のような時代的課題を議論すべきにもかかわらず、民主主義を維持するために、きわめて多くの政治力を消費している現実は残念だ。いま一度、超党派的対話によって時代の課題を解決すべきだとする主張があるが、それは可能だろうか。先進国の超党派的な対話は、理念の違いはあっても最小限の対話が可能な人たちが集まって行う。対話とは相互にやりとりを交わすことだが、民主主義を否定する人たちとの討論は可能だろうか。極端な勢力が保守に成り代わっているかぎり、中道の知恵は不可能だ。

 ふたたび世界的に極右の波が広がっている。極右主義は、崩壊した中間層の不安と恐怖を刺激することで、勢力を拡大している。日常の生活が困難になった人たちが、理性に疲れて考えることをやめて、憎悪と偏見、そして迷信がその隙に乗じて入り込んだ。反移民の狂気の向かい側には、世界化でさらに広がった二極化の陰が存在する。世界はファシズムが登場した時代的な環境にますます近づいている。われわれは幸いなことに、「市民の抵抗と軍・警察の消極性、そして国会の迅速性」によって危機を克服したが、尹錫悦(ユン・ソクヨル)という怪物を誕生させた危機の構造はそのままだという点を、忘れてはならない。

 極右主義が広がる欧州において、ドイツのキリスト教民主同盟のような保守政党が、民主主義の番人の役目を果たしたことに注目しなければならない。ドイツで保守政党と進歩政党が理念的な違いを乗り越えて大連立政権を組む理由は、まさに極右勢力を排除するためだ。もちろん、極右政党とは連立政権を構成しないという「防火壁の原則」が、いつまで維持できるかはわからない。狂気の時代に理性の連合が崩壊しないことを願う。

 今、世界が韓国の民主主義を見守っている。暴力で民主主義を押し倒そうとしていた試みは失敗し、市民が政治の主体として登場し、正義が生きていることを示した。しかし、われわれは、市民の力で作った民主主義の花火が、制度化の過程で冷めてしまった過去の失敗を記憶している。教訓は明らかだ。民主主義の持続可能性のためには、なんとしても連帯の政治が必要だ。ファシズムは、非妥協的な急進派と無能な保守派の分裂の隙間で誕生した。過去の韓国大統領選の歴史をみても、民主主義陣営が連帯すれば勝利し、分裂すれば敗北した。

 金九(キム・グ)先生は1948年2月に単独政府樹立に反対したとき、論語の「小忍ばざれば則ち大謀を乱る(小さいことに耐えられなければ、大変なことを誤らせることになる)」という言葉を引用し、内部闘争を中止するよう訴えた。光復(日本の敗戦)80年をむかえ、われわれは重要な歴史の分かれ道に立っている。何より、極端主義勢力がふたたび政権の座に就くことを防がなければならない。崩壊した国民生活と民主主義を回復するための政策競争は激しくなければならないが、民主主義の規範連合が揺らいではならない。

2025/04/14 07:37
https://japan.hani.co.kr/arti/opinion/52950.html

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